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参考資料

奈良シルクロード・トラベル・フォーラム

講演集

「シルクロードの魅力」

シルクロード学研究センター所長
京都大学名誉教授
樋口隆康
ただいまご紹介に預かりました樋口でございます。
本日ここにお越しの方々は、大体シルクロードのベテランの方が多いのではないかと思います。いろいろシルクロードの各地にもいらっしゃった経験豊富な方だと思いますので、そういう方に今さら「シルクロードの魅力」などという話をするのもどうかと思いますし、魅力というようなものはむしろ皆様方がご自分でいろいろと体験されればよいわけですが、ただ一言申しておきたいのは、シルクロードというのは今日、日本あるいは世界でも非常に関心を持たれておりまして、これは私などから考えますとシルクロードというものは、人類の歴史の中でいわゆる国際交流というものが最も成功した一つの例ではないかと思うのです。
日本という国は、古来から大体日本人種、すべて日本語をしゃべるという単一民族で形成されております。そういう国ではなかなか外国との交流というものはしんどいと言いますか、そんなに自由に行われておりません。明治以前には鎖国時代というような長い間国を閉鎖した時期もございました。外国にはいろいろな民族が一つの国を形成するいわゆる多民族国家が多く、異民族間の交流というものは日常茶飯事に行われている、いわばベテランです。今、日本では国際交流を進めなければいけないという皆の非常に強い意欲がございまして、そういう時に、何を参考にしたらいいかという時に、一番お手本になるのが、実はシルクロードの歴史ではないかと思うわけであります。
と申しますのは、シルクロードというのは、各地の民族の間の交流がはじまって、これは最初はいわゆる経済的な貿易だったのですけれども、その間にやはりお互いの色々な文化の交流によって、各民族がそれぞれに啓発されて、独自のものを作り出していったという実際の歴史事実があるわけでございます。ですから我々日本人にとっては、今後国際交流を促進していかなければならないという時の一番よいお手本だと私などは感じているわけです。
それで今日お話ししようと思いますのは、ベテランの皆様方があまり行っていらっしゃらないところはどこだろうかと考えてみました。そういたしますと、アフガニスタンという国がございます。今回恐らくアフガンの方はいらっしゃっていないのではないかと思いますし、またいわゆる観光の国としてアフガニスタンというものはリストに上がってこない。そういうところをどうしてやるのだということがあるかもわかりませんが、実はアフガニスタンという国は、私は「シルクロードのへそ」というふうに考えているところでございます。文明の十字路という言葉がごぎいますけれども、アフガニスタンはまさにその十字路に当たります。東洋と西洋というものか国際交流をしました時に、いわゆる東のほうからも西のほうからも、あるいは南、北からもいろいろな民族がそこに集まって、そしてそれぞれの文化が交わったという最も典型的な場所ではないかと思うわけであります。
あまり長くお話しする時間がございませんので、簡単に要点だけを申し上げます。
例えば紀元前4世紀の終わり頃に西のほうからは例のアレキサンドロス大王がいわゆる東方遠征というふうなことを始めまして、ペルシアのダリウス王を攻め、それからずっと東のほうに進出して、アフガニスタンの地にも入ってまいりました。それで各地にアレキサンドリアという都市をそこに建設した。それからさらに北のほうはバクトリアにまで進攻し、それからヒンズークシ山脈を越えてインダス川までたどりついた。いわゆるアレキサンドロス大王がまず大きな足跡をこの十地に印し、そしてバクトリアではロクサーヌというご婦人と結婚をして、自分

 

 

 

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