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第二部 国際化に対応した地方税制に関する研究

国際化と地方税
東京大学経済学部教授
神野直彦
?.はじめに−グローバリゼーションの衝撃−
「国際化」の大きな波に、この世紀末の時代が洗われようとしている。こうした劇的な事実は、誰の目にもくっきりと映し出されている。それは人類がその歩みの中で、初めて経験する「国際化」時代の幕開けなのだと表現することができる。
確かに、19世紀末に「国際化」というキャッチ・フレーズが人々の心を捉えてから、いつの時代でも「国際化」という思想は、人々の間を渉猟してきた。しかし、「国際化」を実現するためには、それを支える技術的基盤が不可欠となる。少なくとも「国際化」を可能にする技術的基盤は、この世紀末にいたって、初めて実現したものということができる。
というよりも、これまで唱えられてきた「国際化」は、あくまでも「国際」、つまりナショナルなものがインターするインターナショナリズムであったということができる。一国のもの、ナショナルなものが存在し、それが交流することこそ、「国際化」だと観念されてきたのである。
しかし、この世紀末に展開し始めた「国際化」とは、一国のもの、ナショナルなものの存在を前提にした「国際化」ではない。むしろ一国のもの、ナショナルなものが消滅していく「国際化」だということができる。つまり、インターナショナルという意味での「国際化」というよりも、グローバリゼーションという意味での、「国際化」なのである。
グローバリゼーションを可能にするには、それなりの技術的基盤が必要となる。このグローバリゼーションを可能にする技術的基盤とは、「国際化」とともにこの世紀末のキーワードとなっている「情報化」として表現されている。つまり、情報通信手段の画期的な技術革新が、その技術的基盤となっている。
情報通信手段の技術革新により、通信および輸送コストは飛躍的に引き下がり、地政的優位性も消滅していく。その結果として、グローバル化し、ボーダレス化した世界経済が成立する。つまり、国民経済が集まって構成される世界経済から、国民経済がボーダレス化し、国民経済という障壁の存在しない世界経済へと、この世紀末に世界経済が転換を遂げていこうとしているのである。
このように市場経済が国境を越え始めると、市場経済を国民経済として管理してきた国民国家との間にコンフリクトが生ずる。国民国家が市場経済を国民経済として管理していく時代は終わりを告げる。それとは正反対に、グローバル化した世界経済が、国民国家の政策を決定づけていく時代が始まっている。つまり、国民国家が市場経済に加えている規制を緩和してほしい、国民国家が経営する国営企業を民営化すべきであるという規制緩和と民営化が強く要求されることになる。
もちろん、グローバル化した世界経済は、市場経済に対する規制緩和ばかりでなく、国民国家が市場経済に課している負担である租税に対する改革も要求する。つまり、グローバル化した世界経済は租税負担の軽減と、租税制度の統一化への圧力をかけることになる。

 

 

 

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