

平成8年度 No.2 1996年7月11日 (財)資産評価システム研究センター (通巻93号)
曖昧性と厳密性
中央固定資産評価審議会委員 宍道建築設計事務所長 宍道恒信

建築のように大型でしかも太古から存在するものには、常に曖昧さがついて回る。この曖昧さが人間と建築のつき介いの深さを表しているといっていいのであるが、制度として建築を考える場合には、何とも歯切れの悪い存在になってくるのである。
例えば、家屋の定義をする場合を考えても、制度として家屋を定義付け人工的に区分けすることは可能であるが、厳密に家屋の範囲を確定しようとすると、家屋とそれ以外の部分とを区切る境界がはっきりしていないことに気がつくのである。建築の設計ではこのような内とも外ともつかない曖昧な空間が高い評価を得ることが多い。また設計においては、設計費の多くの部分は、知恵の発揮に費やされているから、成果として発生した使用価値といった効用を金額として評価することは公正の概念からは甚だ難しい。
家屋の評価と建築費の関係を見でも、建築費が、市場経済の中で、思惑に支配されていて幅のあるものであり、かつ需給関係に応じて短期的に敏感に上下する性質を含んでいるから極めて曖昧な存在であるのに対して、家屋の評価においては、3年ごとに固定した時点できっちりと評点を設定するため、制度としての明解性と硬直性が交錯するから、個々の建築費がそのまま家屋の評価に繁がらないのが当然である。しかも納税者は自己の所有する建物の建築費しか分かっていないから、建築費を家屋の評価に転換するシステムの説明には困難が伴うのである。
このように、現実と制度という異なった次元での社会現象を、固定したどららかの視点で以て考えてしまうと、それぞれの社会現象を結ぶ接点が見えなくなって、お互いがその矛盾の解決に苦しむことになるのである。このような場合には複眼とというか、複数の領域にまたがった見識と理解力が必要で、相手の領域にも踏み込んだ考え方がないと実態が見えない。建築という曖昧な存在を、家屋という制度上の厳密な存在に取り込む際には、ぜひともこの曖昧性を正しく認識することが重要であって、制度上いかに厳密に考えても、実際の薬務上では、個別に曖昧性を処理することが必要になるのである。現行の評価システムはこの点比較的良くできていて、建築の曖昧性が、上手に制度に消化されていると思うが、考え方が硬直してしまうとシステムの意味が見えなくなるから注意が必要であろう。
曖昧性と厳密性 宍道恒信(1)
固定資産評価審査委員会の現状
(1月末現在)等について 小野寺則博(2)
適正課税に向けて 小野克幸(6)
都市計画法による開発許可を受けて開発された分譲用団地の中の道路の評価について 森幸則(8)
資料 (10)
業務だより (16)
前ページ 目次へ 次ページ
|

|