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〔クリスマス・キャロル〕の時代

ディケンズが「クリスマス・キャロル」を書いたのは1843年のことです。さて、当時のイギリスはいったいどのような時代だったのでしょうか。
そのころのイギリスでは、人々の生活にとても大きな変化が起きていました。新しい機械の改良や蒸気機関の発明によって、18世紀に産業革命がおこり、それまで人間の手で作られていたものが能率のよい機械によって大量に作られるようになったのです。その結果、工場を経営する人と、工場に雇われて賃金をもらう労働者という、それ以前の社会にはなかった二つの階級が生まれることになりました。
工場の経営者は利益を上げるために、労働者を安い賃金で長時間働かせようとします。労働者たちは貧しく、汚い家に住みわずかな賃金のために小さな子供まで働きに出されました。景気が悪くなると、たちまち失業者が街にあふれ、人々は貧困にあえぎながら悲惨な生活を強いられていたのです。
こういう社会の変化は、人の心も大きく変えてしまいました。「自分さえ儲ければいい」という金持ちたちの利己主義的な考えが世の中に広まって、他の人たちの苦しみなど少しも考えようとしない人が増えていきました。「クリスマス・キャロル」に出てくるスクルージも、まさにそういう人間だったのです。一方、こういう社会の中には、キリスト教の博愛という精神によって貧しい人々を救い、よりよい社会をつくろうと努力した人たちも大勢いました。ディケンズもその一人であることはいうまでもありません。
さて、「クリスマス・キャロル」の時代からおよそ150年がたちました。今は物があふれ、生活環境も改善され、社会は豊かになったかのように見えます。でも、わたしたちの心の中はどうでしょう。スクルージがこっそり住みこんでいないといいのですが…。
さて“クリスマス・キャロル”とは劇中でも歌われる「きよしこの夜」などのクリスマスを祝う歌のことを指します。昴が暮れの定期公演としてこの“キャロル”を歌い始めて早くも6年目、毎年ご観劇くださる方も増え、この公演が定着してきていることを改めて感じます。私たちにとっても、新年を迎えるために欠かせない大切な演目。同じことを繰り返しているようでキャストもスタッフもそれぞれが様々な1年を過ごし、その経験を舞台に反映させるべく、新たな気持ちで作品に向かっています。お楽しみいただけましたでしょうか。来年以降も昴はキャロルを歌い続けます。どうぞより多くのみなさまにわたしたちのキャロルが届きますように。
そしてまた来年、みなさまとお会いできますように。メリー・クリスマス、そしてよいお年を。
劇団昴

 

 

 

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