和船の奉納模型と復元模型
日本海事史学会会長
石井謙治
和船の技術史的研究には、歴史的な実物が現存しないという大きなハンディがある。もちろんこれは、今日でも辛うじて残っている磯船や釣り船などの小船は別にしての話である。したがって江戸時代の海運の主力として全国的に建造され、明治時代でもなお内航船の過半数を占めていた弁才(べざい)船(千石船)の場合ですら、実船となるとただの一艘もないありさまである。この点が、数は少ないとはいえ、実物が大切に保存されている西欧の帆船との違いであり、和船研究のむずかしさがあるというものである。
では、どうやって実物のない和船を研究するのかというと、これには歴史的な方法と民俗学的な方法との2つがある。筆者の場合は前者が主であるが、後者は全国的に多い民俗字研究者とか、近年盛んな民具研究にたずさわる人たちがとっている方法である。もっとも筆者も、昭和30年代は地方へ史料調査に行った際には努めて現存小型和船を調査し、また古老の船大工を訪ねて、それまでに造った船の話を中心に聞き書きをとるなど、2つの方法を並行してとっていた。
その結果わかったのは、弁才船を造った船大工はおらず、若い時に修理を手伝った人が多少いる程度で、いきおい筆者らが歴史学的な方法つまり木割書・寸法書・建
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