古代船の復元
日本海事史学会会長
石井謙治
古代の船を復元することはむずかしい。古い建築ではやっているのだから、船だってできそうなものだと思われるだろうが、もともと消耗の早い船のこと、肝心の遺物が極めて少ない。これが建築の場合と根本的に違うところで、造船技術史が負っている宿命ともいうべきものである。だから占い建造物には事欠かない建築と、江戸時代はおろか明治・大正の和船すらのこっていない船とでは、どだい勝負にも何もならないのである。
一般に、厳密な意味での復元が成立するには、少なくとも寸法・構造・様式といった三つの条件が揃わなくてはならない。ところが船の場合だと、この三つが曲りなりにも揃うのは、図面や雛形や寸法史料などが豊富にあって研究が進んでいる江戸時代だけで、古代や中世の船では手も足もでないというのが実情である。
たとえば遣唐使船だが、あまりにも有名なためか、一般には容易に復元できると思われているらしい。ところが我々船舶史研究者が乏しい史料から考察した結果は、それが復元に結びつくような確実なものは何もないのである。したがって、映画関係の人が遣唐使船を復元したいと相談に来られても、期待に反する答えしかできない。それでは困ると泣きつかれると、一見そうらしく見えるものでごまかす方法を教えることになる。その結果が、世間では専門家が考証したということで、遣唐使船を復元したかのような誤解を生じ、一部マスコミの話題になったりする。むろん好意的な報道ではあるにしても、そうした誤報を生む裏には、復元ということをイージーに考える一般的な風潮がひそんでいることは否定すべくもないであろう。
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