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ように中心地から郊外に中産・富裕所得層が流出し、中心地に低所得層が残るというケースである。この場合には、中心地の収入は税負担能力の高い住民の流失により低下し、支出は社会保障の対象となる住民が残されるために増加する。中心地での貧困者比率の増加が犯罪の増加を促し、中心地での財政難が公共サービスの低下を招くとすれば、中流・富裕所得層の郊外への流出にますます拍車がかかることになる。DCの場合も、犯罪の増加が顕著であり、1990年代に入ってから年間500件にのぼる殺人事件が発生し、人口の流出に拍車がかかっている14)。
 この場合に、中心地の政府構造がDCのような一層制ではなく、州などに属しているのであれば、昼間は中心地の職場で働き、夜間は郊外に帰るような住民に対しても、中心地と郊外を包含する州などがそのような住民に課税して、その税収を中心地の財源へと還流させることができる。これが可能であれば、職場が中心地にあり、居住地が郊外にある人の受益(昼間に中心地から受けている道路、警察、消防など公共サービス)と負担を一致させることができ、公平の観点からも望ましい。
 ただし、この場合も、中心地の人口減少が州議会での中心地選出議員の減少を通じて議会における影響力の低下となって現れるときには15)、州などが郊外の税収を中心地にきちんと還流させる保障はない、このような場合には、中心地への税収の配分が不十分なものとなり、財政危機は解消されない恐れがある。
 それゆえ、受益と負担の公平、中心地の財政安定、住民自治の促進という目的を満たす解決策は、勤務地である中心地とその通勤圏である郊外とを合併して、広域行政区をつくることであろう。もちろん、この場合も双方の地域の住民による理解と協力が不可欠である。
 以上は、中心地と郊外が同じ州などに属している場合の解決策であった。DCの場合は、首都として一層制の政府構造となっているため、上述したような人口移動のメカニズムが働いたとき、税収の損失は他の都市よりも一層深刻なものとなる。すなわち、中心地と郊外を包含する州などが存在しないため、州を通じた郊外から中心地への税収配分のメカニズムが期待できないからである。
 さらに、DCの場合、他の国の首都と比べても、1995年時点で55万4000人と人口が少なく(ちなみに、東京23区は1993年時点で808万人、ロンドンは1991年時点で680万人、パリが1990年時点で215万人、ベルリンは1991年時点で344万人)、面積もパリよりは大きいものの、東京23区の約4分の1の大きさである(ちなみに、東京23区は613km2

 

 

 

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