(1)市町村
1990年現在、フランス本国(海外県、海外領土などを除く)の市町村数は、3万6551に達している。フランスでは自治体の規模の大小による市、町、村などの区別は存在せず、一律にコミューンと呼ばれるが、規模の格差はかなり大きい。人口規模別の市町村数をみると、人口50人に満たない市町村が千以上もある。ヨーロッパ大陸諸国は、一般に基礎的自治体の規模の比較的小さいところが多い(ドイツの自治体数は約1万6000、イタリアは8000余)が、その中でもフランスは飛び抜けている。もちろん、これまで何度も市町村合併の促進が試みられてきたのだが、ほとんど成果はあがっていない。
市町村の行政能力の不足を補うために、市町村事務組合、広域市町村区、都市共同体などの各種の市町村問協力組織が活用されている。市町村行政の長は市町村長(maire)である。市町村長及び助役(adjoint)は、市町村議会の最初の会合において、議員の中から選出される。しかし、市町村長と助役は議会に対して責任を負わず、議会の不信任投票によって罷免されることはないという点で、議院内閣制とは異なる。実際には、名簿式投票制度によって市町村議会議員選挙が行なわれたのち、議席の多数を占めた名簿のリーダーがほぼ自動的に市町村長に選出される。助役の人数は1人から20人までさまざまであるが、議員総数の30%を超えてはならないとされている。
市町村長は、市町村の代表者として、以下の権限を行使する。
(1)市町村議会の執行機関として、市町村議会の議決を執行し、市町村の財産を管理し、市町村の名において契約を締結し、また訴訟の際に市町村を代表すること。
(2)市町村の行政組織の長として、地方公務員の身分規程にしたがって職員を任免し監督すること。
(3)病院、各種福祉施設等の市町村立公施設法人を管理すること。
(4)市町村区域内の秩序を維持し、交通安全の確保のために必要な措置をとること。
(5)市町村議会の委任を受けて、使用料徴収額の決定など一定の権限を行使すること。