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「海の日」は海と船と港の日

画家 柳原良平

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海の記念日を国民の祝日にしようと運動を始めて十年以上ですか、ようやく今年から「海の日」となって実現しました。この日を単なる休日にしないで、永年私たちが望んでいた海事思想の普及の日にしたいものです。
私が船に関心を持ったのは、昭和のはじめ頃小学生の時でした。日本は四面を海に囲まれていて、国を護るのも、海外へでかけるのも、軍艦や商船が人切な時代でしたから、比較的日本人は海や船に関心を持っていました。
しかし、太平洋戦争が終って航空機の発達などの影響でしょうか、急に関心が薄れてしまったようです。私はこれが不満で高校生の頃から船のサークルをつくって人を集め、船を知ってもらおうと見学会ななどを開いたりしました。船会社を訪れて造船技師から船の知識を学び、営業にたずさわる人から海運の経済を教えてもらいました。船キチの始まりです。
美術大学へ人ったのも船会社のPRをする船の絵を描きたいと思ったからです。たまたま洋酒会社の宣伝の仕事をすることになってしまいましたが、おかげで私の作品が評価され、その後船の絵を描くのに大へん得をしました。今は船の本を書いたり、船と港の絵の展覧会を開いて大ぜいの人たちに海と船と港への興味を持ってもらおうと励んでいます。
「海の日」というと多くの日本人は単に海のことだけ考えて、海の美しさ、人切さ、恩恵と連想を拡げ、海のレジャーを通して海に接するようですが、「海の日」は実は海と船と港について考えてほしい日なのです四面海に囲まれて資源のとぼしい国に大ぜいの人が生活しているわが国では海運なくしては豊かな暮らしはできないのです。船や港で働いている人たちのこと、船を造る人たちのこと、漁業で生計をたてている人たちのこと、このことを常識として知る国民になってほしいのです。そのための「海の日」で、海に親しんで楽しむだけの日ではあってほしくありません。
それと同時に、今の日本の海運は経常のために日本人の船員を減らして外国の船員に依存したり、「丸」のついていない外国籍の代物船で運んだりで、だんだん日本人に緑の薄い存在になってきているのは、折角「海の日」として国民の祝日になったのに少し淋しい感じがします。若い人たちに船で、海で働らく夢を拡げてもらえるような海運であってほしいと思うのです。「丸」の付いた日本人に親しみのある船が港を出人りするようになれば「海の日」の意識が更に大きなものになるでしょう。

 

 

 

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