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ってしまうのかと勘違いされそうである。
運輸サービス業の日本外航海運の競争相手は外国の船会社である。出場は一つで、ニューヨークやロンドン等の海運マーケットには世界中の荷動きの需要と、これまた世界中の海運会社からの供給が集り「値決め」が行われる。一ドルでも五〇セントでも安い方が成約に持ち込める過酷な、裸の競走原理に基づく世界である。

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国際競走力の確保が最重要
日本は経済成長を通じて為替が円高になり、コスト高になった結果、メーカーの海外工場への生産シフトが進行しており、空洞化と同時に雇用機会の喪失も問題になっている。外航海運も全く同様で、一般の日本社会より早く、昭和四十年代末から五十年代初めにかけて海外へのシフトが始まった。メーカーの海外工場の建設は、外航海運でいうと日本籍船から便宜置籍船への移行である。海外工場でその国の人々を雇用し生産を行う場面が、よくテレビ番組でも紹介される。日本からの技術駐在員が食堂で従業員と一緒に食事している場面をよく見かける。船の世界も同じである。便宜置籍船という「海外工場」で、日本人の技術駐在員にあたるのが「日本人船長・機関長および上級管理船員」である。混乗という聞き慣れない言葉があるが、日本人船員と外国人船員が一諸に生産活動に従事する訳である。その場合、日本人船員の業務は、ペンキ塗りや甲板磨き、大工や賄いの仕事をするのではなく、外国人船員の指示・管理・指導及び陸上事務所との連絡等という管理的業務に変わる。これは海外工場における日本人技術者と同じことが要求されるということで当然のことである。それらの工場では日本から派遣される技術者は直接の作業ではなく、ライン管理や経常管理など高付加価値の業務を行うはずである。
また、外航海運の売上げは殆どが米ドル建てである。ということは費用もドル化しておかないと、円高の流れの中で大きな差損を被ることになる。この意味において外航海運の「輸出比率」はメーカーよりも遥かに高く、その結果、船も船員も陸上職も今海外移転が進行している。
しかし日本外航海運はテレビ番組のタイトルのように「消える」のでもなく「滅びる」のでもない。単に国際化、多国籍化しているだけである。。石油・天然ガス・鉄鉱石・石炭・食料など今日本のライフ・ラインを支えているのは日本外航海運業であり、その国際競走を現行日本の法体系、行政体系の下で闘って行くには、結果として空洞化となる方法によってしか企業としての義務を果たすことが出来ないのである。国際競走力が保てなければ、資本主義経済原則下、日本外航海運は「滅び」「消える」ことになるが、それは当然のことであろう。それを日本国民が嫌だ、困ると思うなら、外国企業と裸で競走できる環境を日本の法体系・行政体系の中で新たに整備するしかない。今議論されている「国際船舶制度」はその一つの答えである。時代は「回転」する。その回転に乗れるかどうか。

 

 

 

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