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しっぴんぐ 論壇

海運産業に対する国家助成について

東京商船大学教授 織田政夫

 

四面海に囲まれ、資易立国であるわが国にとって、安定した海上輸送力の確保は、国民経済安定の基本条件の一つである。それゆえ、わが国海運産業どこの構成要素である日本籍船と日本人船員は、いまさら指摘するまでもなく重要な存在である。その日本籍船と日本人船員が限りなく減少していく実態動向に不安を感じた行政当局が、『国際船舶制度』によって事態に対処することになった。

 

国家助成と政策手順
一国にとって、海運の重要な役割は、単なる輸出人貨物の安定輸送手段ばかりではない。海運産業なり自国商船隊の存在は、外貨の獲得と節約をもたらし、国際収支に大きく貢献する。また、関連産業の発達を促すとともに、これを通じて幅広く労働需要を創出する。さらに、国防を含む戦略的価値の高い特異な産業として、国(政府)から常に政治的・経済的あるいは社会的期待を寄せられている。
それだけに、各回がそれぞれの目的なり理由のために、自国海運に対し政策的支援を行うことは、容易に理解できる。現代の世界海運は、大なり小なり自国の政策的支援を受けて存続と発展が図られている。
米国もEU(欧州連合)加盟国も、便宜置籍船が享受している低コスト要因に対処する手段として、またその他の外国船が受けている補助金、低利融資および税負担の減免等に対応する手段として、自国籍船を援助し、その競争力の維持および回復を図るのはやむを得ないと考え、国家助成を正当化している。
しかし、海運産業に対する政策的支援が国民の負担になる補助令給付や税制優遇などの財政的支援措置を伴うものであれば、当然に、国として、この先自国海運産業にどのような国民経済的・社会的役割を期待しなければならないのか、そのためにはどのような海運産業の姿が望ましいのか、「ビジョン」と「政策理念」が明確にされ、導入しようとしている政策的支援が場当たり的なものでも労使の妥協の産物でもなく、将来ビジョンと政策理念に沿った一貫性のある現実的な政策措置であることを、まず国民に納得させなければならない。

 

日本人船員の意義
わが国の海運産業は一九八○年代半ば以降急速に日本籍船を減少したが、これに代わる仕組船と実質所有支配する便宜置籍船を拡大

 

 

 

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