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はじめに

 

阪神・淡路大震災において人や施設に多大な被害が発生したことを契機として、全国の地方公共団体において、災害から住民の生命と財産を守る体制ははたして万全かということが問題として認識され、地震による大規模災害を想定した「危機管理体制」のあり方の再検討の動きが活発化している。そして、多くの地方公共団体で地域防災計画の見直しが行われ、初動体制の確立、迅速な救助、救護、消火等の諸体制の確立、地域防災力の強化、自らの命を自らで守れる人づくり、災害に強いまちづくり等の具体的な施策が実行に移されている。
このテキストでは、阪神・淡路大震災が教訓として残したものを概観し、その教訓を踏まえて行われている取組みを中心に、先進的又は特徴あると思われる地震防災対策の事例を通じて、地方公共団体の危機管理体制のあり方について検討する。

 

1 兵庫県神戸市
平成7年1月17日午前5時46分、淡路島から阪神地区にかけて、淡路島北部を震源とするマグニチュド7.2の直下型の大地震が襲い、神戸市域を中心に広範囲で震度7の激震を記録した。被災市町村の中で最も大きな被害を受けた神戸市においては、死者4,484人、負傷者14,679人、全半壊した家屋86,732棟、火災発生件数166件、焼損床面積817,818平方メートルという大惨事となった。(平成8年11月18日現在の自治省消防庁の調査結果による。)
神戸市では、同年3月から地域防災計画の改定をはじめとする抜本的な災害対策の見直し作業にとりかかり、平成8年の3月に地域防災計画(地震対策編)の改訂を行い、現在、同計画に基づいて具体的な地震防災対策事業に取り組人でいるところである。

 

2 静岡県
昭和51年に東海地震説が発表され、昭和53年に大規模地震対策特別措置法が成立し、「地震防災対策強化地域」に指定された静岡県では、いつ起きても不思議でないと言われる東海地震や神奈川県西部の地震に備えて、様々な防災対策を実施してきた。この20年間の蓄積により、名実ともに「防災先進県」といえる同県は、阪神・淡路大震災を契機に、これまでの地震防災対策の総点検を行い、その充実、強化に取り組んでいる。

 

3 静岡県焼津市
駿河湾に面し、人口の密集した市街地を中小規模河川が多く流れている焼津市は、特に津波被害に対する危機感が強く、地震防災対策の進んでいる静岡県下の市町村の中でも、特に、自主防災組織の育成、活性化を柱とする地震防災対策が進んでいる。また、阪神・淡路大震災を契機に「予知型」から「突発型」へとこれまでの地震防災対策を見直し、その充実強化を図っている。

 

4 神奈川県平塚市
平塚市は、昭和54年に大規模地震対策特別措置法により地震防災対策強化地域に指定されて以来、防災公園「平塚市総合公園」の建設、食糧の備蓄や飲料水の確保、自主防災組織の整備など、ハード、ソフト両面にわたり全庁的に災害に強いまちづくりを進めてきたが、さらに、阪神・淡路大震災を契機に地域防災計画の見直しを行い、その教訓を踏まえて地震防災対策の強化を図っている。

 

なお、「危機管理」とは「事故、災害等、不測の緊急事態が発生した場合に、損失を最小限化(危機を回避)すべく、人的又は組織的な対応を緊急に最適化して管理すること。」をいう。
地方公共団体をめぐる「危機」としての「大規模災害」には、地震、台風、集中豪雨、火災、爆発、重油流出だとの様々なものがある。このテキストでは、そのうち大規模な地震災害について取り上げることとする。
また、「危機管理」の内容についても、?@危機の予知・予測(情報システム)、?A危機の防止・回避・事前の諸準備、?B危機対処と拡大防止(被害局限措置)、?C危機再発防止など、危機管理の段階によって様々なものがある。
阪神・淡路大震災以後、各地方公共団体においては、それぞれ大規模地震災害を想定した危機管理体制の整備の取組みが行われている。このテキストでは、事例として取り上げた団体の取組みの中から、主にソフト面における「危機の防止・回避・事前の諸準備」について特徴あると思われるものを中心に取り上げ、地方公共団体として、どのような事態を想定し、いかに実効性ある備えをすべきかについて、検討していくこととする。

 

 

 

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