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?. 科学ビデオ映画「日本住血吸虫の今−フィリピン1996−」(日本語版)“Snail Fever Now -Philippines 1996-”(英語版)の撮影と製作

安羅岡一男
熱帯病の予防と制圧には住民に対する衛生教育が不可欠であり、それにはパンフレット、ポスター、ラジオなどとともに、テレビなどの視聴覚媒体を用いるのがより効果的とされる。最近の東南アジア地域、たとえばラオスでは、かなりの僻地でも自動車用のバッテリーからの電気でテレビを見る家が多くなり、村の充電屋さんの小型発電機は終日フル回転で大繁盛である。今や東南アジアではビデオを僻地の衛生教育に用いるのは非現実的ではない。また、ビデオのような動く視聴覚教材は住血吸虫のように複雑なライフサイクルをもつ病原体の防圧の理解にはすこぶる有用である。
日本住血吸虫の映画は1976年に“Snail Fever Oriental Schistosomiasis”(製作−東京文映:監修−安羅岡一男・田中寛:指導−入江勇治・松田肇)のタイトルで英語版と日本語版が製作された。これは科学技術庁長官賞などを受賞し、世界の住血吸虫症の流行地で長期にわたって衛生教育の優れた教材として用いられていた。しかし、1980年代の前半に本症の革命的な治療剤である「プラジカンテル」が登場し、本症に対する防圧戦略も一転して集団治療を主力とするものに変わった。一方、日本では1982年以来住血吸虫症の新患者が見られなくなり、また中国の患者数も激減し、上記の映画は生物学および病理学的な場面を除いてかなり大幅な改訂が必要とされるようになった。
これらの改訂をどのような形で実現させるか、版権、経費、構成、編集などの種々の視点から検討が繰り返された結果、上記の映画はそのままビデオ化してパート?とし、笹川記念保健協力財団の寄生虫協力による1981年以来のボホールとオリエンタルミンドロにおける本症対策の成果をパート?として製作し、そこに新しい集団治療戦略を組み入れることとした。
製作は東京文映と近縁関係にあるClean Mediaに依頼し、スタッフの村瀬政弘氏(演出)と中根洋氏(撮影)は安羅岡一男に同行して8月4日に成田を発ち、5日はWHOと保健省で撮影し、6日はバタンガスを経由してオリエンタルミンドロに到着した。翌7日は中間宿主貝の棲息状況、駆虫薬の投与、超音波検査、小学校における衛生教育、コントロールチームによる検査などを撮影した。8日は早朝オリエンタルミンドロを離れ、船と自動車を乗り継いでマニラに到着し、さらに空路セブに到着した。翌9日海路ボホール島タリボンに着いたが、途中で船が局所的な暴風雨に見舞われ、小さな老朽船体は転覆寸前にまで大きく傾き、恐怖のあまり女性客は泣きだし、横なぐりの豪雨にずぶ濡れになった乗客全員が救命胴衣を着けて柱につかまってじっと耐えるという状態が十数分続いた。これまで安羅岡一男はこの航路を70回ほど往復しているが、このような緊急事態に会ったのは初めてであった。10日はPatong Creekの除草と殺貝剤散布とともに、土埋、コンクリート溝渠化、養魚池化、水田への転換などの環

 

 

 

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