点の多様度指数の算定結果を示したものである.内湾CおよびB類型の測点では,多様度指数の変動が大きいが干潟域のそれは安定している.また秋季9月の結果には無生物区があり,指数も0となっている.ネットワークの選定には前述の最適ネットワークの同定方法に従った.最終的に多様度指数ネットワークとして中間層1層の3層モデル,中間層ニューロン数を26として10万回学習を繰り返して構築した.教師データは,1986年から1991年までの各測点の環境データと多様度指数である.
図-5(a)および(b)は,上記のネットワークに1992年の各測点の環境データを入力して多様度指数について予測させ,観測値から算定される多様度指数(以下では観測値)との比較を行ったもので,それぞれ1992年の春季および秋季について示している.図-5(a)の春季データに対する認識結果では,内湾C類型のSt.5〜St.23およびB類型のSt.8〜35までの多様度指数については認識結果と観測直との一致度は高いものの,干潟域のNo.12〜森が先の鼻に関しては,城南大橋の結果を除いて認識直が観測直よりも小さく表れている.しかし全観測点について認識結果と観測直を見ると全般的な傾向は一致していることがわかる.一方,図-5(b)は,同年の秋季の認識結果と観測直を比較したもであり,海域類型に関係なくSt.23,25およびNo.12を除いて良く一致している.以上の結果から,底生生物相をニューラルネットワークで予測する際の目的変数としては生物個体数等の単一指標よりも多様度指数のような総合的指標が適しているといえる.
5.3 海底環境区分の認識結果
風呂田は,過栄養によって汚濁が進行したときの海底状況を,無生物海底(0),強汚濁海底(?),弱汚濁海底(?),強過栄養海底(?)ならびに弱過栄養海底(?)の5種類に区分している8).表-2は,各地点の海底環境区分判定の経年変化を示したもので,内湾CおよびB類型と運河域で無生物海底となることがあることや,干潟域では海底区分が相対的に弱過栄養海底から弱汚濁海底域であることがわかる.これらのデータの中から1982年から1991年までを学習データとし,1992年のそれを検証用として,海底環境評価ネットワークを構築した.
図-6は,前述の3層ネットワークモデルで5万回学習させて構築した海底区分ネットワークによって予測した各地点の海底区分と風呂田の方法による判定値とを比較したものである.これより,No.23,25,No.12および干潟域の地点で誤差が大きいこと,他の地点では,若干誤差はばらついているものの,予測直と判定はほぼ一致していることなどが認められる.また干潟域で予測直が判定真値より小さく過小評価となることや,認識率が低い地点は,前出の図-5の結果とも対応した結果となっていることは注意すべき点であろう.しかしCおよびB類型の地点では汚濁が進行している海底区分となっていることや,干潟域では相対的に海底環境:区分が弱過栄養海底が多く評価されている点は,教師データの傾向をよく表している.また従来の環境区分は0から?までの5段階で表示されているが,このネットワークの出力は各区分の中間的な環境区分も評価しうる定量的評価という点も長所の一つといえる.
6. おわりに
以上,ニューラルネットワークを利用して,東京湾の底生生物の個体数,多様度指数ならびに海底環境区分について認識評価を試みた.短期的環境変化の影響を受けやすい個体数について,必ずしも十分な推定を行うまでに至らなかった.しかし比較的長期的な環境変化に支配されていると考えられる多様度指数や海底環境区分については,その全体的な傾向を把握するには十分であること.また本手法をさらに改良することで,今後さらに精度の良い推定を行うことが可能であると考えられる.
参考文献
1)小笹博昭・村上和雄・浅井正ほか(1995):多様度指数を用いた波高・港湾構造形式別の付着生物群衆の評価,土木学会海岸工学論文集第42巻,pp1216−1220
2)中村充(1991):水産土木学-生態系環境エンジニアリング,工業時事通信社,p561
3)松原雄平,野田英明(1994):ニューラルネットワークによる生態系環境評価システムの開発,土木学会海岸工学論文集第41巻,pp1136−1140
4)東京都環境保全局水質保全部(1995):平成5年度水性生物調査結果報告書,532P
5)前出の1)
6)甘利俊一(1993):ニューラルネットの新展開,サイエンス社,pp74−75
7)松原雄平,野田英明,時吉学(1995):ニューラルネットワークを利用した環境評価モデルに関する研究,土木学会海岸工学論文集第42巻,pp1141−1145
8)前出の(4)
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