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のような溶接現象に対する数学的モデルの適用について紹介し、このような取り扱いが材料の溶接性を予測する重要な手段となりうることを講演した。その具体的な適用事例として、溶融池形成現象のモデリング、溶接部の微細組織のモデリング、溶接変形や溶接残留応力のモデリングについて説明した。これらのモデルを組み合わせて、実際のMAG溶接過程におけるビード形成現象を計算機によりシミュレートした結果について、ソフトウエアならびにコンピュータ画面を紹介しながらグラフィカルに講演した。溶接現象のモデリングとシミュレーションは、近年、溶接・接合の材料学分野で関心の高いテーマであり、多数の聴講者を集め、活発な質疑討論があった。
次に、一般講演について概要を紹介する。論文を内容により区分すると、溶接部の機械的特性および脆化関連が4件、構造用銅の溶接性が3件、ステンレス鋼の溶接冶金が2件、溶接部の耐食性が2件、レーザ溶接関連が4件であった。溶接部の脆化現象として、クリープ脆化や焼もどし脆性が取り上げられ、クロムーモリブデン系の耐熱銅の溶接性についての報告が目立っている。ステンレス鋼の溶接冶金では、凝固・変態や析出など溶接部の詳細な組織解析が報告された。一方、溶接部の耐食性では、自動車用メッキ鋼板の溶接部の耐食性について紹介されたほか、生物(バクテリア誘起)腐食が取り上げられたことが興味深い。さらに、近年盛んに研究が進められているレーザ溶接関連では、コバルト基合金やアルミニウムのレーザ溶接性や欠陥発生などのレーザ溶接現象が取り上げられるとともに、レーザクラッディングとその特性に関する研究が報告された。

 

特別セッション SS−3

原子炉の寿命延長と溶接構造の評価
京都大学 香山見
本セッションでは9件の報告があり、約60名の出席の下で原子力発電に用いられている軽水炉の経年劣化の予防を施し、耐用年限を伸ばそうという試み、いわゆる「寿命延長」(厳密には日本では原子炉の寿命を設定するという方式ではないのでこの言葉はふさわしくない)についての講演と活発な討論や関連する溶接構造の評価や再溶接・補修溶接性に関する講演及び討論が行われた。
まず、招待講演として、“Current Status of Nuclear Plant Life Extension Technology Development”(by: I. Suzuki and I. Satou)があり、日本において1985年から開始された「プラント寿命延長の為の技術開発」プロジェクトに関する概要について述べられた。特に、原子炉における中性子照射損傷による脆化の評価と熱処理による靭性の回復についての研究開発については方法論も含め詳細に報告された。続いて、原子力発電プラントにおける蒸気発生機の交換技術としての切断・接合技術の開発について(by K. Kamo et al.)、原子炉・核融合炉の補修溶接の為のタンデム電子ビーム溶接法について(by A. Kohyama et al.)、原子炉の補修溶接の基礎研究である照射されたオーステナイト鋼溶接部におけるスエリング(中性子損傷によるふくれ現象)について(by T. Sawai et al.)、また、具体的な補修溶接技術の検討として、高速実験炉「常陽」の使用済みラッパー管を用いた照射材料の再溶接性評価について(by K. Watanabe)の報告が行われた。後半では、原子炉の寿命延長に関る基礎技術の改善や評価手法についての報告として、2.25Cr鋼のボイラー・パイプの残存寿命評価とクリープ寿命評価について(by M. Nakashiro et al.)、水中溶接における残留応力の低減を実現したレーザー溶接法について(by Y. Sano et al.)

 

 

 

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