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伝染病の知識

平成七年三月九日放送
東京船員保険病院副院長
大谷麗二
人の体は、どんなに健康な人でも、皮層の表面をはじめ、口、鼻、喉、気管、腸の中などに微生物が住みついていますが、その多くは、普段は何の害も与えることもなく、むしろ消化や生理的なものを助けてくれているものもあります。
ところが一方では、人の体に害をもたらす微生物もいます。
これら人の体に害を及ぼす微生物は病原微生物あるいは病原体と呼ばれ、隙さえあれば私たちの体に侵入する機会を狙っています。
病原体が体のさまざまな臓器や組織に住みつき、そこで繁殖することを感染といい、それによって引き起こされる病気を感染症といいます。
ところで感染症の中には、食中毒などのように人から人へと伝染しないものと、人から人、動物から人へ伝染するものがありますが、人から人、動物から人へとうつるものを伝染病と呼びます。
かつて、わが国も赤痢や腸チフスなどの伝染病も含め、感染症が死因の上位を占めていた時期がありましたが、衛生状態や人々の栄養状態が大きく改善され、医学も発達した現在では、コレラ、赤痢、腸チフスなどの伝染病は著しく減少しています。
ところが、最近海外旅行が盛んになるにつれて、旅行者がいわゆる「輸入感染症」として持ち帰って来るようになり、軽視できなくなってきています。
最近わが国では著しく減少しましたが、東南アジアなどへの海外旅行者による輸入感染症として、軽視できないものに赤痢があります。
赤痢には細菌性赤痢とアメーバ性赤痢があります。
細菌性赤痢は食べ物や水と一緒に口から入った赤痢菌が大腸に入って増殖し、粘膜を侵し潰瘍を作ります。
そのために三八〜三九度の発熱、下腹部の痛み、下痢などの症状が起こります。
下痢は普通の下痢便で始まり、やがて血液や粘膜の混

 

 

 

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