
いま、揺れているということは
平成八年一月十八日放送
船員災害防止協会安全管理士
阿部勇紀
もともと、私もあまり船酔いには強くなかったため、「揺れ」には相当悩まされた方ですが、まあ、揺れない船を探す訳にもいきませんし、揺れは船員にとって宿命的に付きまとう悪条件の一つといっていいでしょう。
さて、その「揺れ」と船員災害との因果関係についてですが、災害の発生件数において、陸上産業のそれよりも約五倍の頻度と聞いています。
これは、安全管理に対する思い入れや、歴史にもよるかと思いますが、最大の原因は、われわれの場合、常に足場が動いているという、作業環境の違いからくるものとほぼ断定しても良いでしょう。
ところで、船そのものの命運をも左右する「揺れ」については、古くから造船工学的に研究し尽<されている感がありますが、反面、それに乗っている人間の方はといえば、これが案外、無関心、無頓着で「船だから揺れるのは当たり前」といった感じで推移してきたきらいがあります。
昨今、災害ゼロを目指して、さまざまな対策が言われてきていますが、その中で危険をあらかじめ知ることによって、安全の先取りをしようという考え方をベースにしたものもあります。
この「危険を予知する」つまり、「どこに危険があるのか」という、さぐりの段階で最初にひらめかなければならないのが、実は「船はいつも揺れている」ということにほかなりません。
そこで、今日のテーマである、「いま、揺れているということは」どういうことなのかを、改めて考えていきたいと思います。
「揺れ」は何百の命を奪い取る海難事故から、滑ってしりもちをつくような小さな災害まで、いろいろな災害を起こす災害の元凶です。
私にとって「揺れ」というと、すぐに縦断左右に揺れたときの船の傾斜をイメージします。
直立歩行を行なう私たち人間にとって、立っているそ
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