
船員の高齢化と災害疾病
平成七年八月三日放送
船員災害防止協会安全管理士
阿部勇紀
年は取りたくありませんが、私も来年は六十歳になります。
このあいだまで五五?あった握力も、最近は四〇そこそこ、そのかわり胴回りやおしりの回りは逆比例で大きくなる一方です。
そして、何事につけ「若い頃は、若い頃は」というセリフが多くなっていることに気がつきます。
どんなに年齢が若くても、これを言い始めたら年を取った証拠といわれます。
耳も遠くなった、力もない、ただうるさくて邪魔になるだけ、そんなところに自分は来てしまったのだろうか、それでは「老兵は消える」だけなのでしょうか。
それですむなら話は簡単ですが、家庭の事情やお国の事情がありますので、そうは問屋が卸しません。
頑張らなければなりません。
「そうですか、大変ですね、しかし、気をつけて邪魔にならないようにしてくださいよ」。
このようなセリフがもし聞かれるとすれば、それは認識が違います。
もちろん、消防や警察は若い人に任せるとしても、われわれ漁師こそ知恵と知識と若干の体力で、著者の五倍の漁が可能なのです、できるのです、本当なのです。
じゃあ、何も言うことないじゃないか、文句があるか。
残念ながらあるんですね、それが。
五倍は大袈裟にしても、若者だけでは勤まらない戦場がある、という例を挙げたわけです。
前振りが長くなりましたが、そこのところを今日はお話ししようと思います。
さて、今なぜ高齢者なのか、実はここへきて高年齢船員の死傷につながる重大災害が増えているのです。
皆さんは「世の中全体、皆で年食って行くのだから、年を取った者の災害が増えていくのはごく自然の現象ではないのか、当たり前じゃないのか」、とおっしゃるかもしれません。
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