
ヒューマンエラーをなくそう
平成七年六月二十九日放送
海上労働科学研究所主任研究員
村山義夫
私たちは、いろいろな調査でたくさんの船員と接しています。
最近は、体力測定や、船員の労働負担の調査で各地をまわりました。
この時に接してきた船員さんの中に、大きな傷跡を持った方を多く見受けます。
話を聞くと「網が絡んだ」とか、「はさまった」とか言っています。
船上は危険がいっぱいだと実感されます。
運輸省の災害疾病統計によると、作業中に発生した休業四日以上の船員災害は、年間約二千六百件、千人当たり約二十人が災害にあわれています。
一人の人が五十年近く働けば一回は被災する割合です。
また、海難審判庁によると、年間約一万件の海難があり、昨年は約一千件が審判庁で裁決されました。
ある判例を見ますと、原因は人の安全管理が不十分だったとされています。
その事件は、底曳網漁船で網を巻き上げていた時に、投げ縄がワーピングドラムに逆に巻き込まれたため、スイッチを切ろうとしたところ、縄が身体に絡んでドラムに巻き込まれて死亡したのでした。
衝突や乗り上げても、「見張り不十分」が約三割、「信号不吹鳴」が約一割、「居眠り」が約一割で、原因の九割は人にあるとされています。
人が原因の事故は、本来起こらないはずが、その人の誤りで起こったとされ、ヒューマンエラーだといわれます。ヒューマンエラーはなぜ起こるのでしょうか。
「うっかりしていた」、「たるんでいた」、「勘違いした」、「ボーッとしていた」ということで、不注意だったといわれることが多いようです。
しかしこれらは、人が本来持っている弱点なのです。
ヒューマンエラーを防ぐには、ただ単に、「気を引き締めろ」といっても限界があります。
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