して音を聞こうとする場合には、音のエネルギに相当するエネルギをスピーカに加えてやる必要があり、このためにはいままで述べてきた回路に比べて、大きな電力を出力として取り出せる増幅回路が必要である。
図5・14(a)に電力増幅回路の一例を示す。これは図5・6のトランス結合増幅回路とほとんど同じ形をしている。しかし大電流が流れるので、R3中での電力の消費を小さくするためにはR3の値を小さくしなければならず、その結果としてR1、R2の値も小さくする必要がある。また、大電流によりトランジスタの温度が上がりやすく、動作点がずれて波形がひずむことがあるし、極端な場合にはトランジスタを壊すことがある。これを防ぐためにR2の代わりにサーミスタを利用することがある。
この回路では、信号のない場合でも常に大電流が流れているので、無為に電力を消費していることになる。これを防ぐための回路として、図5・14(b)に示すようなプッシュプル電力増幅回路と呼ばれるものがある。
この回路はトランジスタを2個用いており、図5・14(a)の回路を2つくっつけたような形をしている。図5・14(b)の回路で、バイアス抵抗、R1、R2、R3は2つのトランジスタに共通で、信号のない状態ではべ一スバイアス電流はほとんど流れないようになっている。交流信号が入力に加えられたとき、信号が(+)ならばTr1が働き信号を増幅する。信号が(−)のときはTr1は働かないが、今度はTr2が働き信号を増幅する。すなわち、個々のトランジスタでは完全な増幅はできないが、それぞれが(+)側、(−)側の信号成分の増幅を分担し、2つが組みになって完全な増幅回路として働いていることになる。
図5・14(b)の回路のトランジスタのようにバイアス電流をほとんど流さず、(+)又は(−)の電圧が加わったときだけ働くことをB級動作という。これに対して図5・14(a)の回路のように、(+)(−)の信号電圧のいずれも働くことをA級動作という。電力増幅回路には使用条件に応じて最大定格の大きいトランジスタを用いる必要がある。