減るのである。全く違ったテクノロジー観に達してしまった。これがマイクロイノベーションと言われる所以である。 エレクトロニクス革新の構造を調べていくと、電子および光量子を操作する技術が固体素子として実現された。それがコンピュータというより生命あるいは人間に近いシステムとして工学的に統合されて、新しい社会ニーズを生み出したという姿が浮き上がってくる。テスラの偉大な発明の一つに交流による電気の発電および送電技術がある。この技術によって電気エネルギーは、大規模な集中発電と、蓄積が困難で送電ロスの大きい配電方式を運命づけられたことになる。 一方、生体のエネルギー生産は、明らかに分散化している。また、ほとんどのエネルギーは太陽エネルギーという自然エネルギーによってまかなわれており、エネルギーの輸送は物質によって行われている。ニコラ・テスラの世界システム構想におけるエネルギー供給方式は、生体のエネルギーシステムとの類似性は乏しいと言わざるを得ない。すなわち、エネルギー技術は、生体に近い技術システムを実現するという、現代の技術革新の洗礼をいまだ受けているとは言えないのである。 (3) 進化に見る生命のエネルギー戦略 生命のエネルギーシステムについて文献検索および専門家による講演会の情報に基づいて、べん毛モーターをはじめとすえ主要な構成要素について情報を整理し、「エネルギー利用」、「エネルギー蓄積」、「エネルギー変換」、「システム化技術」の各分野ごとのエネルギー戦略を以下のように取りまとめた。 (a) 太陽エネルギー利用 生命のエネルギーの根源は、太陽エネルギーにあると言っても過言ではない。生命は、極めて巧妙な手法により、光エネルギーを化学エネルギーに変換している。近年、電子伝達系色素と反応中心の構造が明らかになり、電子(エネルギー)伝達のメカニズムが次第に分かってきた。その最大の特徴は、反応中心であるタンパク質が色素分子に定まった配置と分子スケールで不均一な構造媒体を与えており、これにより、通常の有機溶媒中や固体マトリックス中では見られない巧妙な方法で励起エネルギーや電子移動を制御している。まさに、究極の太陽エネルギー変換メカニズムである。 (b) エネルギー蓄積 エネルギー蓄積の観点からみると、生命には大きな2つの特徴がある。1つは、生命はATPという共通エネルギー通貨を媒体として流通しあっていることである。エネルギーの共通通貨を持つことでユニット(部品)点数を低減することができ、またATPを選択したことにより常温での反応を可能にし
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