第5章 L−エナジェティクスとその応用
5.1 L−エナジェテイクス原理
生命のエネルギー戦略を工学的に考察する視点を、L−エナジェティクスと呼んで、前章まで主として、1)エネルギー技術の立場から生命のエネルギー利用を調査し、これを結合している2)進化的システム(自己組織化システム)のダイナミクスを検討してきた。L−エナジェテイクスの中心的課題は、太陽の光と熱エネルギーを直接に化学反応に結びつけ、利用可能なエネルギー変換し、蓄積することにある。図5−1には、エネルギー利用、エネルギー蓄積、エネルギー変換、およびシステム化技術のそれぞれから抽出した新エネルギーコンセプトを整理した。これから、21世紀のエネルギー革新につながるL−エナジェティクスの応用技術を分類すると次のようになる。 ? 太陽エネルギー利用 ? プロトン(水素イオン)エネルギー ? 共通エネルギー通貨 ? 濃度差化学エネルギーの変換 ? 分子機械 ? 自己組織化システム (1)太陽エネルギー利用と水素イオンエネルギー 英国の生化学者P.D.Mitchellは、電気が電圧による電子の流れをその実体としているのに対し、生体のエネルギーが水素イオン(H+)の流れによって生み出されるという考え方を提唱した。Mitchellは、これによって1978年にノーベル賞を受賞している。マイクロイノベーションでは、電子の発見以来約50年でエレクトロニクス分野の顕著な進歩がみられた。50年というスパンを考えた場合、水素イオンエネルギーは、21世紀のエネルギー分野におけるブレークスルーを引き起こす発見と考えてはいけないだろうか。 水素イオンエネルギーが、いかに電気エネルギーと異なるかを見てみよう。図5−2に、それぞれのエネルギーの源(一次エネルギー)、変換方法、生成する二次エネルギー、輸送方法について比較した。まず大きな違いは、水素イオンエネルギーはATPとして蓄積され、この化学反応によって機械的エネルギー、光、音などあらゆる仕事に変換されることである。すなわち、電気に相当するのがATPというエネルギー物質であり、電気が物質でないために輸送あるいはエネルギー変換時に各種のエネルギー損失を受けるのに対し、大幅に損失を避けることが可能となっている。また、一次エネルギーが、細胞膜を隔てた水素イオン濃度
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