第1章 事業の概要
1.1 事業の目的
電気エネルギーによる産業技術は、20世紀に至って長足の普及を遂げた。電力システムの基本コンセプトは、19世紀末から20世紀初頭に活躍したニコラ・テスラによるものと言われている。テスラは、世界システムと称する電力と情報を世界の遠隔地に伝送する技術を構想し、このうち電力については交流モーターの発明から交流システムによる遠距離送電を実用化のレベルにまで引き上げた。しかし、この電力を集中的に発電し、不特定多数の遠方のユーザーに供給するシステムは、その規模の拡大によって様々な社会的、政治的問題を生み出すことになった。石油資源の枯渇、地球環境問題、原子力問題さらには、発展途上国の工業化に伴う南北問題がそれである。 さて、一方現代の科学技術は、生命科学の進歩に大きな影響を受けている。生命の優れた機能を工学に生かそうとする発想がその基にある。資源の枯渇、地球環境問題をへて、今世紀初頭における技術観と現代のそれとの間には、明らかにその目指すところが異なってきた。ここでは、エネルギー技術の立場から生命のエネルギー利用を見直すことを問題とし、人類のエネルギー変換技術に役立つようなエネルギーコンセプトを「L(Life)−エナジェティクス」と呼ぶことにする。生命は、進化の歴史を通じて地球環境との調和を図ってきており、近年の生命科学の進歩によりそのエネルギー利用の実体がかなり具体的に解明されるようになり、その基本は太陽エネルギーと水素エネルギーを活用した化学反応にあることが分かってきた。 21世紀の自然エネルギーとして「太陽−水素エネルギー」に期待が寄せられている。しかし、水素の利用と製造に係わるコストが問題となっているが、エネルギー技術の革新によって解決できると期待される。一方、生命科学の進歩は、生体が進化の歴史を通じて、太陽エネルギーを水素エネルギーとして活用する仕組みを築き上げてきたことを明らかにしつつある。ここに、生体のエネルギー技術を学び、これをエネルギー技術に応用することによって生み出される技術革新に関心が集まる理由がある。 本調査では、エネルギー技術の立場から生命のエネルギー利用を見直し、人類のエネルギー変換技術に役立つような新エネルギーコンセプトを提案するとともに、エネルギー技術として具体的に反映した技術システムを考案し、我が国の科学技術の発展に資することを目的とする。
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