
アジア諸国の発展段階別農業・農村開発基礎調査
−パキスタン国−
東京大学名誉教授 川野重任 皆様、今日は私のこの農業開発、特にパキスタンにおける農業開発について私の意見をご紹介でき、大変うれしく思っております。私共、財団法人アジア人口・開発協会は、昨年1年間を通していろいろな調査を行いました。 残念ながら、私は現地調査に参加することができませんでしたので、パキスタンの農業開発に関してのご報告が不十分になるかもしれません。従いまして、私が、パキスタンの代表団の前で、パキスタンについて話をするのは非常に勇気がいることです。 パキスタンの代表の方々から、率直に厳しいご意見をいただければありがたいと思っております。これから私の発表を読ませていただきます。 「アジア諸国の発展段階別農業・農村開発−パキスタン国−」要旨 パキスタンの農業生産性は、隣国のインドと比べても低い。その理由は主に、塩害、湛水害による土壌の劣化および農業用水の供給量が不十分なためであるとされる。この条件のもとで年率2.9%程度で増え続ける人口を支えることができるかどうかは、非常に厳しい予測をせざるを得ない。パキスタンの国土の大部分は乾燥地帯に属し、その自然条件から降雨量よりも蒸散量の方が大きくなっている。このことは降雨のみに頼った農業では、極めて低い生産量しか確保し得ないということを意味し、パキスタンの農業開発においては河川および地下水を利用した灌漑が決定的な重要性を持つことになる。従って、本調査では、パキスタンの自然的条件の明確化と複雑な関連を持つ灌漑と塩害問題を中心として分析した。 パキスタン最大の穀倉地帯であるパンジャブ地方は、古くより世界の穀倉地帯として知られ、パキスタンの農業生産において最も大きな位置を占めている。パンジャブ地方は、インダス川の支流に広がる広大な地域で、1947年のインド・パキスタン分割によって、インドのパンジャブ州、ハリヤナ州およびパキスタン・パンジャブ州と分かれた。 パンジャブ地方は英領インド時代に張り巡らされた灌漑網によって、ほぼ100%の灌漑率を誇っている。ところが、優良な農業用水が潤沢にあれば、防げるはずの塩害が近来これだけ灌漑が普及した地域で深刻化しつつあるが、英領インド時代に作られ
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