第3章 実船試験、模型試験、推定計算との対応
3.1 実船試験
タンカー船型では満載状態の海上試運転も実施されているが、通常の乾貨物船では新造船時造船所で行う海上試運転はバラスト状態で実施されており従来の海上試運転結果はバラスト状態のものである。
本研究では、実船試験を研究の柱の一つとして位置づけ、就航中の満載状態における旋回性能試験、緊急停止性能試験、Zig,Zag試験、スパイラル及び逆スパイラル試験を実施した。旋回試験においては潮流影響を取り除くため540°の旋回試験を実施した。
平成5年度は平成6年度及び平成7年度に実施する実船試験の準備として試験項目、試験方法及び計測法を立案し、実船試験計測方案を作成した。計測機器としては計測精度をより向上させるためディファレンシャルGPSを使用している。また、実船試験対象船は20,OOODWTから70,000DWT程度の乾貨物船とし、本研究参加の造船所並びに船主殿にご協力を戴き、実船試験の供試船A船として43,000DWT型バルクキャリアを選定した。供試船A船は逆G船尾を有する一般的なバルクキャリアである。
平成6年度は平成5年度に作成した実船試験計測方案に従い、供試船A船により瀬戸内海、伊予灘において就航時満載状態(排水量90%FULL、イーブンキール)の実船試験を実施した。TRIAL状態(排水量47%FULL,1.8%船尾トリム)の実船試験は、A船と同型船であるAA船において海上試運転時伊予灘で実施している。また、前年同様実船試験対象船の選定を行い、供試船B船は68,400DWT型バルクキャリアと決定した。供試船B船はマリナー船尾を有する一般的なバルクキャリアーである。
平成7年度は前年に引き続き供試船B船により宮城県金華山沖において就航時満載状態(排水量94%FULL、イーブンキール)の実船試験を実施した。TRIAL状態(排水量60%FULL、イーブンキール)の実船試験は供試船B船において海上試運転時五島灘で実施している。
供試船A,B船の各種操縦性能試験結果を喫水船長比(2d/L)をべースに図3.1〜3.5に示す。図3.1は35°旋回試験時のアドバンス、タクティカルダイヤ、図3.2は緊急停止性能試験時のトラックリーチ、図3.3は10°Z及び20°Z試験のオーバーシュートアングル、図3.4は10°Z試験時のトラックリーチ、図3.5は不安定ループ幅の比較を示す。図中の記号は各々●印はA船のP−SIDE、○印はA船のP−SIDE、▲印はB船のP−SIDE、 印はB船のS−SIDEの実船試験結果を表している。A船の満載状態のP−SIDEのl0°Z試験は操舵保持時間過不足のため参考値として●印に※を付している。緊急停止性能試験時のトラックリーチ及び不安定ループ幅については○印はA船、 印はB船を示す。図中の実線は満載状態とTRIAL状態の試験結果を直線で結んだものである。また、IMO操縦性能暫定基準の上限を図中にA船の場合A印、B船の場合B印で示す。供試船A,B船の実船試験は各試験共に海象、気象状態に恵まれたこともあり、精度良い計測データが収集できたものと考えられる。
これらの図はわずか2隻の実船試験結果をまとめたものであるが、本図によれば載荷状態の違いが各種操縦性能に及ぼす影響について大まかな傾向があることが伺われる。
最後に、本実船試験を実施するにあたり供試船をご提供戴いた船主殿、荷主殿、計測にご協力戴いた(株)アガサカテック殿及び各委員殿に感謝の意を表します。
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