第1章 緒言
大型タンカー等の大型船の海難事故に上る油流出等によって生じる海洋汚染は、地球規模での環境汚染として非常に大きな社会問題となるため、海難防止および海洋環境保全の立場から、海洋汚染に継がる海難事故は極力避けなければならない。船舶の航行の安全性ついては、運航者のみならず、船の建造あるいは設計する立場からも積極的に取り組まなければならない重要な問題である。そのためには、実海域を航行する船舶の運航性能および操縦性能(以後、総称して運航性能と呼ぶ)を的確に把握することが不可欠となるが、一般に同一の船舶であっても、載荷状態が変わればその運航性能は変化することが知られている。タンカー等の場合については船舶の運航性能を評価するための試運転を比較的容易に満載状態において実施することが可能であるのに対して、一般貨物船やコンテナ船のようないわゆる乾貨物船の場合には、一般にバラスト状態あるいはヘビーバラスト状態で実施されているのが現状である。従って、乾貨物船については、試運転の段階で任意の載荷状態における性能を的確に知ることは困難であるため、なんらかの方法で任意の載荷状態における運航性能の推定を行う必要がある。そこで本研究部会は、乾貨物船の運航性能に及ぼす載荷状態の違いによる影響を考慮した評価法の確立を目指して、任意の載荷状態における運航性能の推定法、ならびに載荷状態の違いが運航性能に及ぼす影響について調査・研究を行ってきた。
まず、初年度の平成5年度は、海上試運転結果の収集、解析のための実船試験の準備・検討作業を行うとともに、載荷状態と運航性能の相関を広く調べるため、海上試運転による実船試験のデータの収集を行い、その解析に関して今日まで公表されている文献の中から参考となるものを調査した。さらに、数学モデルを用いたシミュレーション計算によって詳細な検討・解析を実施するためには、船体に作用する流体力を正確に把握することが必要であることから模型試験により流体力の計測を行った。
続いて、第2年度の平成6年度は船長177mのバルクキャリア(A船)を対象として満載状態における旋回試験、緊急停止性能試験など各種の試験を実施した。また、船長2.5mと4.5mの模型船についても同種の自由航走模型試験を実施し、平成5年度に計測した流体力の計測値を用いた操縦運動のシミュレーション計算結果と以上の試験結果との比較・検討を行った。
最終年度である平成7年度は、平成5年度に実施したA船の船長2.5mと4.5mの模型船を対象として、実船試験時と同じ載荷状態について船体に作用する流体力の計測を行い、流体力の計測値を用いて行った運動のシミュレーション計算結果と実船試験結果との比較を行った。また、船長215mのバルクキャリア(B船)を対象として、満載状態における旋回試験、緊急停止性能試験など各種の試験を実施し、その結果の解析を行うと同時に、B船についてもシミュレーション計算結果と実船試験結果との比較・検討を行った。さらに、本研究で得られた同一船に対するバラスト状態および満載状態の実船試験結果のデータを利用して、乾貨物船の場合に通常行われるバラスト状態における試運転データを使って、満載状態における運航性能を推定する方法について検討を行った。
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