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5 得られた成果

水上を進むタンカー等肥大船のまわりには、水の粘性によって生じる、流速の遅い領域である境界層が厚く発達している。このような流場を理論的に推定することは、粘性影響を無視したポテンシャル流理論や、薄い境界層の仮定に基づく境界層理論等の従来の理論では不可能であり、水など粘性流の大本の支配方程式であるナビエ・ストークス(Navier−Stokes、略称NS)方程式に立ち返る必要がある。NS方程式は非線形であるため解析解を得ることができず、膨大な計算によって数値的に解かざるを得ないが、近年、計算機の急速な発達と数値計算法の進歩によって、NS方程式の数値解法であるCFD(Ccomputational Fluid Dynamics)が、工学的にも利用可能となってきた。
本SRでは、肥大船まわりの流れの高精度推定のために、CFDに基づく数値計算法の研究を、4つのアプローチに基づいて行った。第1番目は船尾縦渦に注目した基礎粘性流場推定法、第2番目は波に注目した造波粘性流場推定法、第3番目はプロペラを含む推進性能に注目した自航時粘性流場推定法、第4番目は今後の技術の発達の芽となる将来に向けた研究である。

 

5.1基礎粘性流場推定法

5.1,1はじめに
本研究の主目的の1つは、肥大船船尾で作動するプロペラに流入する流場の高精度推定法の開発にある。プロペラ流入流場については、自由表面波の影響が比較的小さく、自由表面を上下対称の鏡像面で置き換える2重模型船流れ(double model flow)の近似が有効である。この近似を用いると、自由表面波を計算する必要がなくなり、計算負荷が大きく軽減できると共に、対応する実験として、上下対称な模型を用いた、風洞における流場の微細計測が可能になるという、研究効率上の大きなメリットが生まれる。そこで、基礎粘性流場推定法に関する研究として、2重模型船流れの近似を用いた数値計算法に関する研究と、風洞における2重模型船を用いた実験的研究を行い、肥大船まわりの流場の推定法を改良・構築し、数種の船型に適用して、その評価を行った。
5.1.2数値計算法
(1)乱流計算法と乱流モデル
船のまわりの流れは、水の粘度の低さから、模型船、実船を問わず高レイノルズ数流れであり、流れの微細な時間的変動が重要な役割を果たす乱流状態にある。ここでは、乱流の数値計算法と、用いられる乱流モデルについて、図5.1.2.1に沿って説明する。
乱流の数値計算法の中で最も計算量が多いのは、微細な乱流変動も含めて非定常な流場を細かな格子を用いて直接解く、直接数値シミュレーション(Direct Numerical Simulation、略称DNS)である。DNSは、極めて細かい格子と、莫大な計算時間を必要とするため、実用的でない。
DNSの次に計算量が多いのが、流場を空間方向に平均化し、格子の解像度以下のスケールの乱流現象をモデル化する、LES(Large−Eddy Simulation)である。格子(grid)サイズ以下のスケールの現象をモデル化するために、その乱流モデルはSGSモデル(Sub Grid Scale Model)と呼ばれる。LESも、膨大な計算量を必要とするため、船体まわりの複雑な3次元流場に関して未だ実用的でない。

 

 

 

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