2 研究の目的
今後、21世紀に向かって我国造船業の国際競争力を増強、発展させるための課題として、船舶の性能向上と性能設計・開発の効率化がある。このためには最適化に時間と費用がかかる水槽模型試験を中核とした従来の船型計画法から理論・実験に支援された数値計算を中核とする新しい船型計画法への転換が必要となる。これを達成するための実用的性能推定法の構築が強く期待されてきた。
VLCC等大型肥大船の船体周囲流場、とりわけ、船尾流場の挙動は船体の抵抗性能やプロペラ近傍の流れに与える影響が大きく、性能設計における極めて重要な流体力学的情報となっている。この推定法の高度化は船舶流体力学分野の中で最も難しい研究課題の1つであるが、これが達成できれば肥大船のみならず全ての船種の推進性能向上に波及的に役立つことになる。このため、従来から境界層理論などを中心とした多くの研究が試みられ、進歩をみてきたが、肥大船の船尾流場では剥離や縦渦の発生など極めて複雑な三次元的現象を伴う粘性流が支配していること、さらに造波やプロペラの影響が付加されて現象をより一層複雑にしていることなどにより、現在までこれらの問題に十分な精度で応え得る推定法が開発されていなかった。
これをブレークスルーする新しく高精度な方法として、数値流体力学(CFD)を利用した計算法の確立が強く要望されてきたが、主として、コンピュータの処理能力や表示能力の限界など計算環境条件の未発達により実用化研究までには至らなかった。しかし、1990年以降、数値計算技術、コンピュータ支援技術、計測可視化技術などの高度先端技術が飛躍的に発展することにより、いままで不可能と考えられていたCFDを基盤とした新しい大規模計算に挑む機が熟した。
本SR222「大型肥大船船尾流場推定法の高度化」は上述の要請に基づき、到来した技術環境を最大限に活用して各種推定法を評価改良し、従来達成し得なかった肥大船船尾粘性流場の物理的構造を明らかに出来る精度の高い実用的推定法を開発することを目的とし、これにより、新しい流体力学的設計法である「流場解析的船型計画法」の構築に役立てようとするものである。(図2.1にその概念図を示す。)
2.1 場解析的船型計画法の概念図
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