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よって、複雑な構造の応力計算が容易にできるようになったが、船は自然界が相手であるため、まだまだ実験を積み重ねた研究を行う必要がある。
船体強度に関する理論の歴史は古く、約100年ほど前から徐々に発達し、今世紀の初めには確立されている。古くからの木船は各地に自然発生的に生まれ、長い間の経験の積み重ねと、伝統的な勘によって作られたのに対し、新しく鉄鋼船が出現し、船の大きさを飛躍的に大きくする必要に迫られて、理論が発展したのである。今日の30万トン、さては50万トンにもなろうとする超大型船の出現は、船体強度理論の発達によるものである。
従来木船の造修を行っていたものが、鋼船を手掛けるようになるには、以下説明する船体強度および設計の概要を修得し、これを実務に生かし、より優秀な船を、より経済的に建造できるように心掛ける必要がある。勘と経験のみでは限界があり、やはり新しい発展のためには学理にもとづいた設計能力が必要である。
 
1.1.3 船殻設計とは
 
船殼構造の方式を定め、各部材の寸法を求め、図面にこれを書き示すことを船殼設計という。手順としては、まず仮に構造を定め、これにかかる外力を推定し、各部材に生ずる応力と変形を計算し、応力と変形を許しうる限界内に収まり、かつ構造重量が最小になり、確実な工作が行なえることを検討して、構造を決定する。したがって、設計図と計算との間には数回の往復があってよい。(これを試行錯誤、何回も失敗を重ね修正しながら目標に迫って行く方法という)
しかし、一般の船の主要な構造部材については、船舶安全法による構造規程(鋼船構造規程、小型鋼船構造基準、鋼製漁船構造基準)または海事協会の構造規則(NK、ロイド、エービー)があって最小寸法が与えられているから、これによって部材の寸法が一応決められる。しかし、この構造規則はあくまで普通の構造で、普通の使い方をする船について定めた最低基準であることを忘れてはならない。したがって、小型鋼船でもとくに倉口の長い船とか、重量貨物を積む船とかでは、部材の寸法について割増しが必要な場合がある。また反対に、高速で喫水の浅い船では、構造材の寸法(とくに上部構造)を軽減しないと、船体重量が重すぎて所要の速力が得られない場合がある。船級協会の構造規則は、入級船の条件となり、各協会により少々の差がある。
それでは、これら構造規則はどうやって作られたかというと、過去の実積船(安全に運航されている船)の資料を用いて構造強度計算をし、応力と変形の値が妥当な値となるように、船の大きさに従って整理し、構造寸法を数式または表の形式で表したものである。したがって、構造規則によって船殼設計のできる範囲は限られており、とくに一般船から外れた船の場合には船体強度の知識が根本になければ、合理的な船殻設計はできないといっても過言ではない。
 
 
 

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