第1章 概要

1.1生産とは

物を生産、即ち造るには、まず、その物を造ろうという意欲が必要である。特にむずかしい物を造る場合には、なおさら、この意志が強固でなければならない。物の生産には色々な難所があって、そこで行き詰ってしまうことがあるが、その際大いに頑張って完成するだけの推進力が必要である。このことは、工場管理の根本原則であって、特に、その指導的立場にある人の意志の程度、仕事をやりとげる精神そのものが、この生産の鍵をにぎることになる。極言すれば、この意欲のない人は物を生産する資格はないといえる。

物を生産することが、如何に多くの手順を必要とするかを一つ説明してみよう。いま、品物としては最も簡単であるとみられる陶製の壷を例にとってみよう。

壼にも色々なものがあるが、壼の目的は一般に水を貯えるのが目的である。古代から水は生活の必需晶で、人間は水のない所には住めない。人問の体はその大部分が水分であるといわれているから、水の補給がなくては生きてゆくことはできない。この大切な水を貯えたり、運んだりするのが壺であって、人類の創世期にまず最初に造られた必需品の一つである。

この壷の発明・生産によって、人類は必ずしも水辺に住まなくても、雨水をためたり、河沼の水を住居まで運んだりすることができるようになった。

さて、この便利な、生活必需品である壷を作るということになったら、そこに、どんな生産の過程が待っているであろうか。まず第1は、前述の生産意欲である。次にくるものは生産の計画である。生産計画の第一歩は企画である。それも大きな基本的な企画をしなければならない。

?@どんな型にして、どのくらいの大きさのものを造るのか、すなわち、何リットルくらい水が入ればよいのか。

?Aどんな材料で造るのか。

?Bいつまでに造りあげなければならないか。

?C費用はどのくらいかけるのか。

?D誰がこれを造るのか。

?E何処で造るのか。

?Fこれを造るには、どんな道具がいるのか。

?G何個造るのか。

この壼のような簡単なものを造るにもこの基本的な企画だけで、こんなに沢山のことを決定しなければならない。

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