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また、最初のうちは口先だけではでに立ち廻っていた人も、時間がたつにつれ、内気で用心深い人に変わってしまうこともある。はでな人、内気な人、いずれの場合でも、指導者は、それが単独飛行前の過程であっても、常に気をくばってやらなければならない。
せっかく育ってきた慎重さが、最初のソロによって「早く単独できた」といううぬぼれに変わりやすい。指導者によっては、そのような練習生に対しては、わざと単独をおくらせることもある。練習生時代に、「単独がいちばん早かった」といううぬぼれは、本人の将来のために大きな欠陥を与えることになる。
その反対に、練習生が小さな失敗を起したときには、本人は大きい精神的なショックを受けるものである。このようなことは、練習生にとって非常に大きな教えとなり、第三の要素を育てるチャンスにもなる。
指導者があまりの要心深さのために単独飛行の時期を延ばすと、練習生にとっては初単に対するフレッシュな緊張感が薄れ、何の感激もなく最初の単独飛行を終わってしまうことになる。結果としては、この単独飛行は安全に完了したようになるが、実際には、練習生の将来の飛行に対する重要な要素を一つ持たせることができなかったことになる。
その要素とは、人からなんの助言も受けないで、自己の技価せいいっぱいの飛行に対する自信、精神的な動揺を抑えて的確な判断のもとに飛行を続ける意志である。のんきな同乗飛行では、困難なときに遭遇したときに耐える精神的なささえを養成することにはならない。人生の中で、一度、どん底まで沈んだものは、どんな不遇にも強いのと同じように、飛行中の困難に対しても冷静に判断することができる。そして、初の単独飛行に成功した喜びは、初めての大空の魅力を味わって、一生残る喜びとなる。したがって、指導者は早すぎず、遅すぎない最初の単独の適機を逃さないようにしなければならない。
航空事故の大部分は、機体の不備よりも、精神的な欠陥によって起る場合が大部分である。事故の原因が機体の不備にあっても、事前にそれを発見できず、そのまま飛行してしまうことが多い。すなわち、不注意、粗雑という精神的な欠陥である。ほんとうのパイロットは、飛行前の念入りな点検によって、その人のほんとうの腕を知ることができる。
事故原因が技術や知識の不足による場合は案外少なく、むしろ、腕も上がり、

 

 

 

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