のが病気の大きな原因になるということが分かって参りました。
どういうことかと言いますと、人間というのは大きな不安だとか、あるいは恐怖感とか心配がありますと、副腎という臓器の中から出るカテコラミンというホルモンがあります。ホルモンが出ますと、血液の中でコレステロールの値がぐっと上がって心臓をやられます。私達も急に人から脅かされたり、何か家で事故があったと言われると、心臓がドキドキドキとしてしまい、血圧が上がります。これは副腎からホルモンが出てそれが血圧を上げてしまうのです。
避難所では私達はいろんな不安がある、情報が入らない、心配が多い、ずいぷんストレスがたまりました。ストレスがたまったから心臓で死んだ人がたくさんいます。それはまさにマクロの社会、エコロジーから始まって地域、家族、人間に来たものが心臓という器官を痛めてしまったのです。
アメリカのカリフォルニア州で、1年間で死亡した人1万人の生活環境を調べてみた学者がいました。どういう人が一番よく死ぬのかという調査です。そうしますと男性の場合は独身者、友達がいない、家族の関係が悪い、こういう人が一番死亡率が高かったのです。女性の場合は結婚している、していないはあまり関係がなかったのですが、友達がいない、地域の中で孤立している、そういう人が一番死亡率が高いのです。死ぬ原因というのは心臓で死んだり、肝臓で死んだり、いろいろな原因がありますけれども、そういう私達の生活環境が一番弱い臓器を痛めてしまうということが分かってきました。
聴覚障害を持っている方は聞こえの保障がないために、ストレスが高いために、心臓だとか、肝臓だとか、あるいは癌だとかいろいろな病気になる確率が高い筈です。ですから今回のテーマにもありますように、「高齢化社会における聞こえの保障と健康」、この健康ということを考えますと、私達はストレスのことをもう少し分析して行く必要があると思います。
耳が聞こえないということは個性の問題です。そしてその個性があるが故に、保障がされていないために、ストレスが高ければこれは人為的につくられたストレスによる病気と言っても過言ではないと思います。病気の予防、あるいは治療ということを、ただ単に疾患を持った臓器だけの治療ではなく、これからは私達の家庭における生活、地域における生活、そういうことをしていくと非常に健康で予防になるということがだんだん証明されて参りました。
心臓で一番よく死ぬ人達はどういう人達かという調査がありました。これは北米の調査ですけれども、職場でものすごくストレスを持っている人で妻の愛情がない人、さらに妻の援助がない人、これが一番死亡率が高かったのです。ですから夫を長生きさせるかどうかは奥様が握っているということが最近科学的に証明されて参りました。
私達の生活の保障というのは二つあります。一つは政府行政によるシステムの保障、もう一つは私達の家族や地域の人達と幸せな仲のいい生活をすることによる健康の保障と、この二つがあります。
私は今度の震災をいろいろ分析をしまして、そのプロセスを五つの段階に分けて考えてみました。一番目はレスキュウ期、これは救助期です。私も震災の時、ベッドから投げ出されました。とにかく真っ暗闇でした。電気が消えました。何が起こったか分かりませんでした。いろいろな方のインタビューをしたり、あるいは書かれたことを読みますと、聴覚障害の方は補聴器が飛んでしまった、どこにあるか分からない、見つからないのです。家の中は目茶目茶です。私の書斎も本で埋まってどこに何があるかさっぱり分からない、台所もお皿とか瀬戸物とか油などが床に散乱していて何も見つかりません。ですから大変なことが起きたのだけれども何が起きたのか全然情報がつかめない。家が潰れて閉じ込められた人がいました。助けに来た人が「オーイ、生きているか」と声をかけてくれるのですけれども、聴覚障害の方はその声がけが分からなくて「助けてくれ」というタイミングがうまくいかなかった。ですからこの救助期においても聴覚障害を持っていた方は大変苦労しました。