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淡水魚類から見た川づくり

横須賀市白然博物館 林 公義

 「ふる里の川」と言われるイメージは、水草の繁る緩い流れの中をフナやタナゴが泳ぎ、昼はトンボが飛び交い、夜になるとホタルの淡い光が水面に写るという情景に代表されるであろう。しかしこの風情のある「ふる里の川」の情景が、ほんの数十年前までは身近な自然環境として存在していたのである。生活は便利になり物質的な満足感が得られるようになった反面、生物資源が豊かであった緑地・河川・海辺が身辺から減少し、精神的な安らぎを得ることのできる環境は消失してきたといえる。治水目的としての河川改修や外観上の整備は一応完成したものの、生物生産の側面からはまったく生態系を無視した都市河川整備も少なくない。
 いま、この都市河川に「ふる里の川」を呼び戻そうという努力が払われるようになり、新しい河川整備のあり方として多自然型の要素を取り込んだ工法が検討されるようになった。そして河川に生息する水生生物を水の監視役として活用し、身近な自然環境の保全と保護を考えるための呼びかけも増え、各企業や行政も積極的に取り組む姿勢がやっとみえてきた。そこで最も親しみやすい陸水生物群のひとつである淡水魚類を通して見た、指標性と河川整備のあり方を再度考えてみる。

指標生物としての淡水魚類

 陸水環境の評価に対する生物額的指標としての種類に関しては、小は大腸菌群から大は魚類や水生植物までがあり、近年の研究成果からは底生生物とりわけ水生昆虫にその有効性が認められ実際に河川されている。しかし野外において肉眼で検討できる水生生物としての魚類は、その個体の大きさや各水域における数量において他の微小生物群とは異なり、一般に親しみやすい生物群といえる。環境評価において生物学的指標として用いられる各生物群の共通条件には、対象とする生物が(1)全国的に分布していること。(2)観察や識別が容易であること、(3)季節的な変動や消長が少ないこと、(4)生物と水質の対応が明瞭であること、(5)流程分布が固定的であることなどが挙げられる。
 淡水魚類を指標活用する上での利点にはつぎのようなことが考えられる。河川における淡水魚類は、他の水生生物と比較すると大型な動物であり、オタマジャクシやザリガニなどともに子供にとっても親しみやすく、大人にあっても「釣り」を通して関心の多い動物といえる。各水域における数量の増減や死亡浮上などによる確認情報の得やすさからは、直接的な水質環境の変化を淡水魚類の動態によって得やすい。また慣れてくると、水中の観察だけでなく陸上からの目視だけでも種類の識別が可能となる。本人による観察や確認が困難であっても、遊漁や漁業が行われている水域で

 

 

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