
震災の被災地域に144万加入があったといわれる電話も、交換機の故障(商用電源の停止とバックアップ電源の損壊)によって地震当日は約28万5000回線が不通になり、さらに19万3000回線の加入者系ケーブルが家屋の全半壊にともなう切断と火災による焼失のために、これは長いところで1月末まで使えなくなった。なかでも神戸市内のトラブルが多く、2月1日付け毎日新聞によれば、市内7ヶ所計12台の予傭電池のバッテリー液がこぼれ、また渋滞によって職員や移動電源車の到着が遅れたり、停電が長期化したため復旧にたいへんとまどったという。なお、重要回線としては、前述のように、神戸海洋気象台と大阪管区気象台とをむすんで震度などの地震情報を伝えるL一アデス(ローカル・アデス)にも一時支障が生じた。 一方、物理的障害を受けなかった電話も巽常輻鞍などによって不通になったため、一般回線はほとんど使用不能になってしまった。神戸市内へのアクセス件数と市内からの発信件数の合計は、通常時が4万なのに、ピーク時には200万にのぼったというから、およそ50倍になった計算である。さらに、ほとんどすべての防災機関には、災害時に優先的に通話が確保される災害時優先電話が配備されていたが、多くの電話機のうちどれが災害時優先電話なのかを知らなかった防災機関さえあり、十分活用できなかったと聞いている。こうした電話事情のために、防災機関自体が被害状況を把握することが困難になったのである。 自治体の防災対策にとって、電話の被害はとくに深刻だった。というのは現行の体制では、消防には消防無線、警察には警察無線、自治体には防災行政無線というように、それぞれ独自の災害情報システムがあって、組織内部の情報伝達は電話に依存しないでもある程度可能であるが、たとえば警察と消防、消防と病院など組織と組織のあいだの連絡は電話に頼らざるを得ないというのが現状である。そして電話が大きな障害を受けてしまったために、この組織間連絡がほとんど不可能になってしまった。今回の震災では被災地域内の2600もの病院が被害を受け、負傷者の治療にも大きな困難があったが、重症患者を設備の整った病院に転送するなどというとき、病院と消防、あるいは病院と病院などの連絡は電話に頼らざるを得ず、その電話が故障や輻輳のためほとんど使用できなかったという事態が生じている。 電話の不通は、被災者にとっても大きな障害になった。今回の震災は家族が一緒にいた早朝に発生したから、家族同士の安否情報二一ズはそれほど高くなかったとはいえ、会社や親威・知人に安否を伝えたり、親しい人の安否を問い合わせるために、あるいはもっと深刻だが、家族に負傷者が出て消防や病院に連絡するために、地震直後から電話を使おうとした人は少なくなかった。しかし前述のように、電話の障害や異常輻輳によってなかなか電話がかからなかった。たとえば、筆者が8月下旬に神戸市と西宮市で行ったアンケート調査(神戸市;700人、西宮市;500人)では、「地震当日に自宅から電話した」という人が
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