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ケース3

手漕ぎボートに乗った親子がパドリングを楽しんでいたとき小型船に衝突され、親子とも海に投げ出され、救命胴衣を着用していましたので、幼児は無傷で救助されましたが、母親が衝突の瞬間我が子をかばったのか、重傷を負ってお亡くなりになりました。これもやはり小型船が漁具の準備をしていて前方をよく見ていなかった事故です。

このようにプレジャーボートの事故は悲惨な結果を招くことも少なくなく、事故=人命の図式が成り立つのも特徴的で、艇が壊れただけで済んだときは、むしろ不幸中の幸いと言っても良いのではないでしょうか。貨物船などの衝突や乗揚事故で直接人命に係わることは余りありませんが、プレジャーボートは、逃げる場所もなく、高速で、しかも船体が大破することが多く、海に投げ出されてプロペラで負傷したり、ちょっとした事故でもFRP製の船体に亀裂や破口を生じて浸水をくい止めるのが難しく大事に至るケースもあるようです。

◎海の護身術

それで、実際に衝突直前はどうしているかと言うと、漂泊している方がエンジンをかけて自ら衝突を避けるケースはほとんどなく、身振り手振りで合図したり、釣り竿を振ったり、「おーい、おーい」と大声で叫んだりして注意を喚起しているのですが、エンジン音に消されるのか?気付かないことが多く、そのまま衝突しています。

どうも、男性の声は海の上では相手船に届きにくいようです。

「家庭でも同じだ」というささやき声が聞こえてきそうですが…

スーパーマーケットのレジの担当者が笛を首に掛けているのを見かけますが、あなたもお護りのつもりで身近なところに笛を持っておいてはいかがですか。

◎海技の伝承

いずれの事故例も、見張りの励行、水深のチェックといったごく基本的なところが欠けていたわけですが、昔から船乗りのイロハとして受け継がれてきた安全航海の頭文字『L』は、今も昔も、大型船も小型船も、変わらないということでしよう。

◆Lookout(見張り)

◆Log(速力)

◆Lead(測深)

◆Location(位置)etc.

どの分野においても後継者不足が悩みの種となっていますが、漁船や貨物船など海の職場においても若い乗組員が年々少なくなり、長年培われてきた海技の伝承が難しくなっています。海の世界では、経験に勝る教育はないなどとよく聞かされたものですが、事故を体験してみるわけにいきませんし、海に出る機会がそれほど多くない方々にとっては、なかなか体験する場がありません。そうかと言って事故を起こしてからでは遅いのです。

ですから安全講習会の場などがあれば積極的に参加して、貴重な体験談などを自分のものとして吸収して頂きたいと思います

◎観天望気

以前はよく耳にした言葉ですが、天気予報の的中率が上がり、気象情報の入手が容易となり、艇の性能が向上した今日では、余り耳にすることはありません。

しかし、いくら性能が向上してもプレジャーボートにとっては、海が時化る時期の気象情報の入手は欠かせないものです。

テレビなどで最新の気象情報(予報)の入手は容易になりました。私は家族と釣りに出かける前には、天気予報はもちろん確かめていますが、最近はテレホンサービスを利用して、今どこで、どちらから、どの位の風が吹いているか、満潮か干潮か、潮流は速くないかを確かめてから出かけるようにしています。私が子供のころは雲の形や夕焼けを見て明日の天気を知り、八幡製鉄所の煙突からはき出される七色の煙を見て、風向風速を知り、関門海峡でブイ係留している大型船の向きを見て、潮流や潮汐を知り、大潮か小潮かはちょっとした暗算で求めていましたが、今ではそのような光景は目にすることはできませんし、テレビなどで簡単に入手できますので、空や海を見なくても状況が把握できるようになりました。

◎Let's Try

私はマイボートを持っていませんので、いつも海岸から釣っているのですが、家族といっしょに釣りを楽しむには、やはり風は大敵です。今では、テレホンサービスで風潮を確かめるのは小学生の息子の役目となっていますが、結構重宝しています。

関門地区ではテレホンサービスが行われていますので、特に冬場は出かける前に一度利用してみてはいかがでしょうか。

TEL 093-381-3399

 

◆海難審判◆

 

◎ご存じですか?

海難審判という言葉を初めて目にする方も多いことでしょうが、海難が発生すると私達理事官は関係者から当時の状況をお聞きし、審判廷で審理して原因を明らかにして、その事故が小型船舶操縦士など海技従事者の過失によって発生したものであるときは、免許の取消、業務の停止などの行政処分を受けることになります。・・要注意・・

プレジャーボートの事故も例外ではありません。

狭い理事官室で船長さん達と顔を突き合わせての事情聴取が終わりペンを置きますと、やはり誰もがホッとした顔つきになり、時にはより生々しい体験談やその日に限って大物が釣れたんだという自慢話も聞くことができます。ただ、事故のことになりますと、一様に「なぜあの時」「なぜあんなこと」「なぜ気付かなかったのか」など、なぜなぜ尽くしのさながらミニ安全教室といったところで、まさに生きた教訓を提供していただいているのですが、受講生が私一人だけなのが残念なところです。

こうして事情聴取も終わり、部屋を後にされる船長さん達に、

「ここでは二度とお会いしないようにしましょう。」

と一声かけて送り出すようにしています。

プレジャーボート事故『0』への願いをこめて…

 

 

 

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