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序章

白馬桃源郷青鬼の村並み保存

 

1 春、そして豊かな四季の青鬼集落
長く厳しい冬が終わりをつげ、梅雨に入るまでの一ヵ月余の間の短い春。山の木々、野の草花が一斉に活動を開始する。春先は空気が澄み、西の空に日本アルプス白馬連峰の山々が白い屏風のように立ちはだかっている。安曇野の春は短い。短いだけにそのぶん美しさは格別である。絵心ある人たちはこの時をねらって写生にやってくる。縁したたる夏、紅葉の秋、そして深い雪におおわれる長い冬、繰り返えしてきた自然のサイクル。登山そしてスキーのメッカ白馬村は、夏と長い冬こそが稼ぎときである。
青鬼は、姫川東側の山間にある茅葺き集落である。いまは15軒の家いえが、南斜面の等高線にそったかたちの山ふところに三日月形に2段にならんでいる。集落の東西は200メートル余り、標高756−766メートル。ここから3000メートル級の白馬連峰が見わたせる。この高い山々の麓につくられた長野冬季オリンピックの会場になるジャンプ台もよく見える。いまでこそ青鬼で車道は終わっていて、辺鄙な土地に映るが、国道や鉄道が整備される以前は、善光寺道や戸隠への参道がこの青鬼の集落を通っていた。
青鬼集落の四季の美しさは、他の集落とくらべて優るとも劣らない。しかし、姫川の西側が白山連峰の登山、スキー場、別荘地として開発されて集落人口が増えているのに対して、東の山々はスキー場がないためか、どの集落も過疎が著しい。廃村になった集落もある。青鬼は山間集落とはいえ、大糸線白馬駅から4キロメートル余りという近い距離にある。それにもかかわらず常住している家11軒・人数23、学校に通っている子どもたちは一人もいない。老齢化が著しい過疎地になっている。
青鬼。いっきにやって来る春。花が咲き、人びとが農作業にはげむ遅い春。この山間の茅葺きの静かな山里は、わたくしには桃源郷に映った。白馬桃源郷である。

 

 

 

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