日本財団 図書館



産業遺産としての浄水場や造船所ドッグ等にも拡がりをみせ、保存活用が多面的に展開して今日を迎えている。

(2)保存活用の今日的展開

 以上の歴史的変遷を経た保存活用における今日的展開をまとめると次のようになると考えられる。

?転用、滅失の要請の増加と保存運動

 煉瓦建造物においては、まだまだ現実に倉庫、事務所ビル、鉄道施設で使用されているものも多い。しかしながら、経済効率、設備面の不良、老朽化等から急速に転用や滅失の要請が高くなってきている。一方、歴史的資産として保存活用すべきとする保存運動もかつてない高まりをみせている。

?保存から活用へのシフト

 従来の保存中心の方向から活用面を重視するという傾向が強まっている。公共サイドでは、従来は資料館等が中心で非採算的施設に限られていたものが、採算性も考慮し、物販やレストラン等をいれるものが増加しつつある。また、民間施設も従来は企業のイメージアップを意向した記念館的なものから、営業面からも煉瓦を活かすことがメリットであると判断される事例が増加しつつある。これは現実に建て替えるよりも補修で済むので安あがりといった面もでてきている。1996年に文化庁は新たに「文化財登録制度」を発足させたが、この制度は文化財として登録しながら、活用の自由度も大幅に認めたゆるやかな内容となっており、ますます活用面に拡がりをもってくるだろうと思われる。

?面的なまちづくりの一環として

 従来の単体における保存活用から、周辺のまちなみと一体となって考えようという動きも増大している。面的に連携した交流の核づくりや、都市の景観形成の中核にすえようというまちづくりが進んでいる。この場合は、単体の保存活用方策だけではなく、地区の指定そのものが「重要伝統的建造物群保存地区」や「都市景観形成地区」のように法令や条例で規定されたものであることから、面的な担保制度と補助・助成が可能になる大きなメリットを有している。面的なまちづくりにっいての動向は事例集として(4)でまとめている。

?対象物件の拡がり

 従来、保存活用の対象となっていたものは、主としていわゆる建造物である倉庫や工場、旧庁舎等であった。これらはそのままでも使用できるし転用もたやすい。しかし、近年の傾向はそれにとどまらず産業遺産としてのトンネルやドッグ、煙突等まで拡がりをみせつつある。これは、産業遺産の文化財的価値を認める動きが増加したことと呼応し、記念保存していく動きとともに、展示ホールやイベント会場等全く新しい施設として再生される展開までみせている。これも前述した「文化財登録制度」の発足が後押ししているといえる。「文化財登録制度」については、概要を別に資料としてまとめているので参照されたい。

(3)単体保存活用事例集まとめ

 代表的な20事例をまとめた。シートの構成は以下のとおりである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION