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ルメス像が扉を半ば開き男を導くレリーフがあり、また、後に兜跋昆沙門天像を多く排出する四川省では後漢の王暉石棺(慮山県出土)(図?)に「半開の扉」を持つ有翼で鱗身の仙人が表現されている[注?]。おそらく、このようなイメージは死者の霊魂を黄泉の国へと運ぶヘルメス的役割が、鳥と翼のモチーフと関連していることを示唆し、ついには日本の古事記に記された天鳥船(あめのとりふね)伝説やそれを表現した装飾古墳(図?)にも受け継がれてゆく。(兜跋)毘沙門天像の細部に宿ったヘルメス像=翼状装飾は夢想に夢想(イマジネーション)を呼ぶのである。
<和光大学講師>

 

注(参考文献)
注?桑山正進「カーピシー=ガンダーラ史研究」一九九〇年 京都大学人文科学研究所
注?田辺勝美「ギリシア美術の日本美術に対する影響」「東洋文化」75東大東洋文化研究所 一九九五年
注?井本英一「ヘルメスをめぐって」「象徴図像研究」VOL.X 象徴図像研究会 一九九六年
注?前田耕作「バクトリア王国の興亡」 一九九二年 第三文明社
注?玄奘著・水谷真成訳「大唐西域記」一九七一年 平凡社
注?上居淑子「古代中国考古・文化論叢」一九九五年 言叢社

 

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?珍敷塚古墳壁画(福岡県・日下八光氏模写)

 

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【図書紹介】ブータン風の祈リ

―ニマルン寺の祭りと信仰
写真=田淵暁 文=今枝由朗

 

ヒマラヤ山量重端の小王国ブータンの人々は、今も大変仏教の理念を心の糧として、日々の生活を営んでいる。本書では、この国のほぼ中央に位置するブムタン地方にあるニマルン寺を中心に、僧侶の暮らし、最大の年中行事ツェチュ祭の準備や祭りの熱気、トンドル(大掛け軸)開眼供養、人々の暮らし等が紹介されている。こまやかに捉えられた映像は、ブータン仏教の心とでもいうべきものを感じさせてくれるるニマルン寺は、チベット仏教・ニンマ(古)派の法灯を受け継ぐごく小さな寺であるというが、それ故、人間と宗教の原初の関係性を見る思いがする。田淵暁の写真は、ブータン人の信仰の篤さ、真摯さ、生活の温もりを、内面から深くとらえ、杉浦康平の造本は、ブータン仏教の気品を漂わせている。今枝由郎の壁画や板面舞踏の解説は、研究書としても意義深い。それにしても、衣装、仮面、とりわけ、トルマ(尊格への捧げもの)の鮮やかな、圧倒的な色彩感覚、子供たちが示す表情の初々しさには、言葉を失ってしまう。B5判 252ページ 5800円(東京都港区三田三の一の五 平河出版社)

 

 

 

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