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対談…谷川健一+中園成生

生月島の鯨漁

◎鯨組益冨家の隆盛◎

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上・勇壮な銛をうつ場面[鯨綱掛りたるを早金守を以突場][『鯨魚覧笑録』生月町博物館島の館蔵(以後、島の館と略す)]
下・羽指(ハザシ)踊の様子
[「生月御崎納屋場羽指踊図」『勇魚取絵詞』島の館寄託資料]

 

谷川…水上すず子という歌人がいますが、大正時代のなかば平戸島で過ごしたその人のエッセイを読んだことがあります。薄香湾に鯨が入ってくると村人は捕えに行きます。そして半ば陸に引き上げ鯨を解体します。彼女はまだ少女の時で、母親に連れられ、峠を越えて薄香湾に行くと、波が鯨の血で真っ赤に染まっている。粗末な身なりの女たちが水の中に入って、鯨の肉片を拾ってすばやく袋に入れている。手拭で顔を隠している。あれはキリシタンだよ、見るんじゃないよ、と母親が彼女の袖をきつく引いたという話は非常に印象的でした注?。当時のキリシタンの生活は決して豊かではない。その人たちの姿と鯨の風景がエッセイの中で描かれていました。生月に初めて来た時、鯨の痕跡はほとんどなかったです。
益冨家の名前は司馬江漢『西遊日記』に出ていましたし、司馬江漢は絵描きで捕鯨の様子を描いていましたから、それを期待して行ったが生月には鯨の手掛かりがなかった。益冨家の家はありました。鯨一頭寄れば、七浦が潤う大きな獲物ですから、これを捕った時代の生月をはじめ西海が非常に栄えたであろうことだけは推測できます。
中園…生月の鯨組を経営した組主である益冨家に残されている古文書の多くが組の経済に関する文書です。鯨製品の売り買いや、どれくらい収益が上がったかという文書がか

 

 

 

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