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である。この人物像を母神から生まれた赤ん坊と解釈する意見もある。しかしよく見ると、人物像の両掌で地母神像の両脚を支えているようにも思われ、兜跋毘沙門天の地天女と同じ機能を有した地母神自体の可能性もある。チャタル・フュックの地母神像は、前号で指摘した中インド・バールフトのクベーラ・ヤクシャ像から兜跋毘沙門天像へと継承される台座と尊像との出自性や補助機能を具有し、地母神のダブルイメージを表現した普遍的な姿を私たちの前に見せてくれる。
ところで、チャタル・フュックはトルコ中部の古都コンヤから南東約六〇キロの場所に位置している。現在は范漠とした荒野にこんもりとした丘だけがとり残されているが(図?)、かつては狩猟に適した動物が闇歩し農産物が稔った豊穣の大地であったのだろう。私はアナトリア諸文明博物館でチャタル・フュックの地母神像を見た後この丘に立った時、この地母神像がここで造られた理由がおぼろげに察せられた。E・ノイマンが言うように地母神(グレート・マザー)は《玉座それ自体》で[注?]、まさに母なる大地に抱かれた子宮なのである。チャタル・フュックのこの丘もその意味では万物を生成する子宮=玉座であり、地母神像はその象徴に他ならない。また、この像の二匹の豹はチャタル・フュックの五日玉座の守護獣であり、事実チャタル・フュック出土の狩猟図壁画には豹や豹皮を着た人物が描かれており豹の守護獣性の傍証となるが、もし、兜跋毘沙門天になぞるなら(尼)藍婆・毘藍婆の二鬼を連想する。地母神(地天女)との原初的イメージはここに完成している。
さて、アナトリアの地母神信仰はチャタル・

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?ハシュラル出土の地母神像
(アンカラ・アナトリア諸文明博物館像)
?カルケミシュ出土のクババ女神像(同右像)
?コンヤ考古学博物館

 

 

 

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