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るのが御扉開きという行事である。それから赤米の入った炭を天井より下す。一斗の種籾をとり苗床の準備をする。
田植えには村の田植えがすんでからする習慣であったが現在は六月十日固定している。
その日から逆算して四月二十五日頃前後の吉日をえらんで種籾を海水に浸して準備する。
苗床は「仏の座」と称する定った水田にタネモムオロシをする。田植えは必ず一日で終るようにする。
今年耕作番に当る家の主人が水口に、茅三本に蓬の茎でたばね、神の依代であるネズミ藻(ウミノトラノオ)と梅干と赤米飯を供え神酒を捧げ拝む。
また、神の田の水口と水じりには忌竹を立て〆縄を張り、忌竹には竹の筒に海水をいれウミトラノオをさしこみ、宮僧が数珠をくり真言密教を唱え今年の豊穣を祈る。
この行事が終えて田植えがはじまる。仏の座の田植え刈り取りは女が入ることはできない。終るとマツノリの海草膾がでて生魚と酒がでて直会を終える。
田植から八十八日頃の九月五日前後になると出穂しはじめる。九月上旬はまだ残暑がきびしいなかに赤米の真紅の長くのびた芒がゆらぐようになる。稲穂が青くのびた普通の水田の中に、一際目立って咲く赤米田の真紅の芒の色は遠い昔の神々がもたらしてくれた恩恵である。
赤米の年中行事になくてはならないのが海草のネズミ藻である。遠い昔から神の依代として神を招来するものとされてきた。タカミムスヒの神が徐羅伐に赤米をもたらしてから忘れられない記憶がある。
亀ト神事のサンゾーロ祭にしても、漁師たちの船魂祭にしても神話とネズミ藻の海草が結びついて習俗が成りたっている。
仏の座(寺田)の赤米は男だけで刈りとる。
乾燥させ種籾用とし六斗を糖選し他は年中行事に充当する。寺田の新しい藁で俵編みし八尋でしめて俵をつくる。赤米をつめた俵を天井のさるかんに吊して供僧がネズミ藻を俵の口にさしこみ海水を注いで真言を唱えて神づくりをする。十月十八日は初穂米祭りをするが新嘗祭の儀式である。
旧正月になると赤米の神を次の当番受け頭への準備をする。受け頭の主人は海岸に行き潮をあびをし身をきよめ、門松をたててから餅つきの準備をする。赤米は粳であるから蒸し竪臼の中で圧しつぶすようにして臼形の正月餅をつくって飾る。
一月十月の夜半より赤米の神(俵)を次の家に引き継ぐ頭受け神事が行われる。赤米の炭を天井より下しお守り申す役の背中にのせその上に裃をかけ、かい添え役二人をつれて、先頭の行列には松明をあかした老人の祝い歌を併せてよいのまちを進行する。
家人や村人たちは無言で拍手をうって見送る。次の家につくとみんな上座して拝む。忌竹の門松の中を通って座敷にあがり、赤米の神を犬井に吊してネズミと海水をかけて神を鎮座させる。こうして神渡り神事が終る。
神渡り神事が終ると夜明けまで直会の神酒宴が続く。酒宴の杯の持ち方が違っていて両手でもって赤米のとりがらを握りながら飲む、そして明け方まで飲んでここの家には赤米の宝がきたから正月様はいらんと言って拔い捨てていく。
こうして赤米神事はすぎていくが夜明けになると受け頭の主人は鍬をかついで赤米田に行き水口を掘りおこし赤米飯を埋めて年こしの田起し行事を今日も行っている。

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深夜、赤米の神渡り

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サンガワリの杯

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天井に吊るされる赤米の神

 

 

 

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