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同時に、他の作物に比べてステイブル(Stable)です。収量が余計とれるということだけではなくして、一〇年にいっぺん、二〇年にいっぺんの凶作はありますが、これが麦や雑穀だったらもっと頻繁に不作、凶作の凸凹が多い。そういう意味で、ステイブルであるということが日本人が主食に選んだ大きな理由です。もちろん根底には何と言っても旨さが全然違うということですね。
中尾佐助さんがよく言っていましたが、世界の麦作地帯で麦をやめて稲を作って米を食うという地域はかなり増えている、例えばイラクやイランが、それからウクライナあたりらそうだと。戦後日本は逆に米をやめて麦に転換しためずらしい実験をしている民族だという。
谷川……伺いたいのは、ステイブルというところに忌地性がないということもあるんですか。
渡部……そうです。水を入れて栽培することによって連作ができるということです。麦もできないことはないんですが、あまり長く耕作していると、やはり収量が減ってきます。
谷川……籾種を管理して、それを一定の土地に長く植えていた信濃川の流域では、籾種をスジと呼んでいるのですが、家筋という語もそれから来たんだということを柳田さんは言っています。それとつながるでしょうね。忌地性がないということは、同じ田んぼで何十年と耕作するのですからね。
渡部……スジで思い出すのは、佐渡島へ調査へ行った時のことです。酉のほうへ突き出した棚田の地帯で、毎年田植えする時に海に向かって、棚田を作ってくれた知るかぎりの先祖の名前を呼ぶんだと。言っていました。何の誰兵衛、何の二郎作など、知っている先祖の名前を叫んでから田植えするんだと地元のお百さんは言っていましたけれども、これもスジのなせるわざでしようか。私の知っているのは、佐渡のそのお百姓さんだけが、本米はみんな胸の中にその気持ちはあったのでしょうね。
谷川……久米島に仲原善忠という民俗字者がいて、そのお兄さんの中原善秀という人が『久米島諸語』を書きまして、そこに棚田を作る時の苦心談を薄いています。それが大変な苦労なんです。要するに水のないところに水を作るわけですからね。
渡部……一代で一枚か二枚作るんでしょうね。海岸から石を運ぶ人は大変な労力です。今は久米島にはほとんど稲はないんですよ。水田を潰しちゃっているんです。
谷川……昔の人の稲に対する愛着と言いま

 

 

 

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