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郎の著『日本古代稲作史雑考』がたまたま私の家にあるんですよ。
渡部……それはその後『日本古代稲作史研究』と書き直されますけれども、最初は雑考でした。
谷川……『日本古代稲作史雑考』は、昭和二十六年四月五日が刊行日になっています。ところが、四月十一日に柳田さんが読んだことを示す、読了の文字が朱筆で書いてあるんですね。だいたい発行日から一週間足らずの間に読んでしまって、そしてすごく書き入れをしている。私も本当に驚きました。
そういうことで、私も稲については前から関心がなかったわけではありませんが、特に『稲のアジア史』は画期的なお仕事だと思っていました。

アジア史から見る特異な日本の稲作

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上・稲刈り
渡部……『稲のアジア史』の企画は、柳田先生たちの稲作史研究会の意図に共感するところから出発しました。言い換えれば、柳田・安藤両氏らの学問的態度を継承したいということが本書を成立させる上の基本的理解です。この二〇年ほどの間における稲あるいは稲作をめぐる研究成果の蓄積は、往年の比ではないのです。特に東アジア、東南アジア及び南アジアの稲の研究は隔世の感のある如く進歩したと言わねばなりません。『稲の日本史』においても、中国、朝鮮半島、インドシナ半島のそれぞれについて論じられてはいますが、今日からすれば物足りない記述も多く、当時の学問的水準のしからしむるところです。『稲のアジア史』の序文に少し気負ってつぎのように書きました。われわれは『稲の日本史』における先学たちの学問への姿勢を継承し、その後に展開した学問的蓄積を重ねて本書を構成しようと、あえて高名の『稲の日本史』に倣って、書名を『稲のアジア史』とすることに躊躇しない。今、私たちはその命名に値するであろう学問的山脈の頂上とはもち

 

 

 

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