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中国の農村演劇と儺戯…田仲一成

姿を現わさない鬼

 

儺戯とは鬼を追うという厄払いの儀礼で、儺舞とも言っています。儺戯にはお芝居の意味が入っていますが、その前はただ追儺と言っていました。儺はもともと鬼追いの声をさしていました、儺戯は追儺が演劇化されたものです。演劇化される前の状況は鬼を追うことが目的であって、とにかく鬼が怖いから鬼を追い払うことに重点が置かれた儀礼だったと思います。日本の追儺は私はよく知りませんが、中国では追儺にはいろんなパターンがあります。鬼を追い払う所作が基本で、鬼はその姿を現わさないのです。時には小鬼ぐらいは出てきますが、鬼を追い払う方が仰々しい怖い面をつけています。鬼そのものは、形がないのかもしれませんね。江西省南豊県とか萍郷県とか数ヵ所、見てきましたが、何れも劇としての内容はなにもないのです。専ら所作で組み立てられているわけです。
刀や槍などの武器をふりまわし、かなり早いスピードで空中を飛んだり跳ねたりしながら戦闘の状態を演じる。そして必ず複数の人が組になって行う。春の祭りで邪気を払うための目的がはっきりしている。鬼を追う方は鬼が嫌う赤色のはちまきを巻いたり赤い着物を付けたり、鎧を付け怖い面を被り武装した姿で登場しています。鬼は赤色を嫌がりますから。ですから追儺は明らかに戦闘行動を形に表している。
村の一軒一軒を回って家の中に潜んでいる鬼を追い払っていくので、みんなが見ている広場で格好のいい姿を見せるというわけではありません。神様の威力によって鬼を追い払うのですが、上級の神様の指揮のもと、実際に戦闘を行うのは下級の神様です。鬼追いの主たる神様を儺神と言っていますが、人が破れないほどの大きな巨大な仮面を破ったりします。日頃はお官に祀っていますが、それを御輿に載せ担ぎ出して村の中をぐるぐるまわします。その儺神は抱瘡などの疫病を追う神様という人もいます。一般に唐葛周三将軍と言って三人一組の神様です。または金甲将軍とも言っています。概ね黒い顔をしています。黒は疫病を払う神様の特徴なんです。疫病にかかると顔が変色して黒くなるんです。ある神様が疫病を一身に引き受けて村人のために毒を吸ってくれて顔が黒くなったという話が中国には残っています。疫病を払う黒い顔をした神様を日頃からお宮に祀っています。出動して下さる時期は春で、しかも実際に戦うのは部下たちです。なかには真っ赤な仮面がありますが、それは火事を追っ払う神様です。古代の人にとって一番怖いのは原因不明で襲ってくる病気と火事ですからね。

追儺から演劇化亡霊の魂鎮め

四、五人が組になり、隊列を組み地面に四角の区画を設け、東西南北中の五方角の中で鬼を追う所作をする。台詞はなにもなく、ただドラや太鼓を激しく鳴らすだけで、それが一般的な追儺の形ではないかと思います。江西省の中部から北部にかけて数ヵ所で見ました。演劇とはとても言えない。追儺、つまり村の外へ鬼を追い出す所作なのでしょう。追儺の行事は少年、若者がやるのです。冬は陰

 

 

 

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