危険物を積載した船舶は、他の船舶に比べて爆発、火災等をひき起す危険性を常にはらんでおり、万一事故が発生すれば当該船舶は勿論のこと、付近の船舶、港湾施設等各方面に大きな災害を与えるばかりか、多数の人命の損失にもつながることになる。このため、わが国においては、明治6年(1873年)に他の海事関係法規の制定に先駆けて「危害物品船積規則」を公布して危険物の運送に関する規制を行って来た。その後、昭和8年の船舶安全法の制定に伴って、同法第28条「危険物其ノ他ノ特殊貨物ノ運送及貯蔵ニ関スル事項並ニ危険及気象ノ通報其ノ他船舶航行上ノ危険防止ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」の条文を根拠にして昭和9年に危険物船舶運送及貯蔵規則を制定、さらに第2次世界大戦を契機として、わが国及び諸外国における化学製品の急激な増加、大量広範囲にわたり船舶による輸送が行われるようになった情勢に対処するため、昭和32年に、1948年の海上における人命の安全のための国際会議の危険物関係の規制の内容を取り入れた「危険物船舶運送及び貯蔵規則」(以下「危規則」という。)を制定し、現在に至る。一方、船舶による危険物の国際運送における個々の危険物の具体的な運送条件は海上における人命の安全のための国際条約(以下「SOLAS条約」という。)により締結国政府に委任されているが、各国政府が独自の規制を行うことは円滑な流通の障害となり得ることから、1960年の海上における人命の安全のための国際会議において国連の専門機関である IMO(国際海事機関)(旧IMCO)に国際的統一基準の策定を依頼することが決議された。この勧告を受けて IMOは、国連において危険物の海上、航空、陸上輸送に関する専門家から構成されている危険物輸送専門家委員会と相協力して、1965年にIMO勧告として「国際海上危険物規程」(International Maritime Dangerous Goods Code)(以下「IMDGコード」という。)を初版策定した(図 1.1 参照)。