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2) 緑の革命の農村経済社会への影響
ところが、緑の革命が農村の経済社会にもたらした効果は、農村の地域的条件の違いや農民の経営規模の差異などによって必ずしも一様ではなかったため、特に、緑の革命が所得形成や所得配分に与えた影響に関しては、プラスとなったかマイナスとなったかこれまで評価が分れてきた。
そのように異った評価がなされる第一の原因は、緑の革命の技術的特徴にある。つまり、緑の革命導入の基本的技術前提は、第一に良好な灌漑条件があるかどうか、少くも、雨期に一定の雨量が期待できるかどうかである。雨がほとんど降らない乾燥・半乾燥地帯では、緑の革命は導入するすべがないのである。従って、同じアジアにありながら、また、同じ国内にあっても、そうした地域では緑の革命の恩恵に浴せないまま、とり残されてきた可能性が少くないといえよう。また、水を利用できるような地域の農民でも、貧困な零細農家などは経済的理由と技術的無知から、肥料や近代的品種の種子を入手し難たかったケースが、少くも緑の革命が始まった1960年代にはあったと云われる。他方、経済力と能力のある大規模農家は、積極的に緑の革命を受け入れたことにより、同じ農村の中でも、緑の革命の恩恵に浴せた農民と治せなかった農民に分極化し、緑の革命が農民間の所得格差を拡大させる要因となって、農村に社会的不公正(inequity)をもたらしたとの主張も少くなかった。
更に、緑の革命の進展によって、インドネシアのアニアニから鉄への収穫用具の代替によって発生したように、在来品種の収穫に際しては多くの土地なし農村労働者を雇用してきた村で(7)、近代的品種の導入によってそうした社会慣習を変えてしまうケースも生じ、大規模富農層と貧農や土地なし労働者層との間の格差を拡大させる危惧があるとの主張も少くなかった。(8)
そもそも、長年にわたって施肥をしない在来品種を使ってきた小農が、近代的品種の稲を使って灌漑や施肥を伴う近代農法を採用するには無理があるとすらも云われたこともあった。しかしながら、シュルツが云うように、たとえ文盲の小農でも、ある農産物の生産が明らかに確実な収益をもたらすことが分れば、農民はそうした経済機会を生かす能力をもっている。近隣の農家が緑の革命を導入して確実な収益を挙げて

 

 

 

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