日本財団 図書館


 

に代る新品種の開発である。当初、この新品種は、在来品種に比べて飛躍的に高い収量であることから、高収量品種(High Yielding Varieties,略してHYVs)と呼ばれていた。その後、単に高収量というだけでなく、耐病害虫特性や味の改善等の側面も含めて、近代的品種(Modem Varieties,略してMV)と呼ばれるようになった。
緑の革命が実現するには、好灌漑条件とか肥料の増投とか様々な要素が必要であるが、この近代的品種の開発なしには、緑の革命は存在しなかった。その意味で、革命と呼ばれるのに値する近代的品種の特性を再確認しておく必要があろう。そこで、まず、在来品種の一般的性格を整理した後、近代的品種の革新性を明確にする。

 

1) 在来品種の性格(2)
かつて熱帯アジアに普及していた稲の在来品種は、背丈は高いがあまり茂らず、しかも、土壌中の養分、特に窒素が少ないので栄養失調のため葉は黄色であった。ha当たり収量も極めて低く、1960年当時、温帯の日本の平均5.6トン(籾)に比べ、国平均で収量の一番高かったインドネシアでも1.8トンであり、ha当たり平均1トンに満たない国もあった程である。もっとも、アジア諸国での農業試験場での試験区の収量はもっと高いものもあったが、3トンがほぼ最高であった。
当時の一般的認識は、熱帯では温度が高く、土壌が強い風化を受けて地力が低く、病害虫が出やすい気候状況にあるので、温帯と同様な収量を期待するのは無理だろうということであった。インディカ種は窒素を同化する能力が弱く、窒素肥料を上手に同化して蛋白質を作れないため、肥料を増投じても増収できないと考えられていた。いわば、熱帯の在来品種は、胃腸が弱いためご馳走を食べると下痢をしてしまう稲ということであった。
しかし、その後、IRRIにおいて、日本の作物学者たちが中心となって稲の光合成を、当時タイミングよく開発された赤外線ガス分析機を活用して分析した結果、窒素肥料を増投することによって収量が下がるのは、胃の消化力が弱いせいではなく、むしろ消化力が良すぎて、稲の葉が大きくなり過ぎてしまい、倒伏したりして、かえって結実できにくくなることが原因であることが明らかになった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION