日本財団 図書館


 

2) 農業の成長パフォーマンス
南アジアの食料事情は、サハラ以南アフリカの停滞とは対照的に、1970年代半ば以降、相当の改善をみてきた(図1)。表3からも窺い知ることができるように、従来小麦に限定されてきた「緑の革命」が稲にも普及を始め、東部インドからバンクラデシュー帯の最も人口稠密で貧しい地域にも技術革新の恩恵が及ぶようになったからである。
灌漑はしばしば「緑の革命」の先導投入財として重視されるが、南アジアの場合、民間管井戸(private tubewell)を抜きに灌漑を語ることはできない。先進農業地帯であるパンジャーブでは管井戸が政府用水路灌漑を補完する形で利用され、また東部インドの稲作への「緑の革命」普及に際して管井戸の果たした役割は決定的に大きかった。東アジアとは比較にならない大規模な用水路網を必要とした南アジアのエコロジカルな条件は、末端に至るまで官製の灌漑管理制度を発達させ2、耐え難い非効率と腐敗を生んだ。かかる欠陥を補ったのが民間管井戸であり、とりわけ要水量の多い稲作において死活的意味をもった。
民間管井戸は主に農村の支配層である富農の手によって掘削されてきた。東部インドやバングラデシュなど零細分散錯園制を特徴とする地域では、地下水を周辺の貧しい農民に売却する「水市場」が発達した。「水市場」の発達は管井戸を掘削できない貧しい農民にも新技術の採用を可能にした。
ただし問題がないわけではない。バングラデシュでの筆者の調査によれば、水利料は作物粗生産額の33〜40%に達し、管井戸投資の収益率は年率70%にも及ぶ3。これは農村の他の投資機会の利潤率と大差なく、一概に「暴利」とはいえないが、管井戸の所有者と非所有者の間の所得分配上あまり好ましくない影響を与えたことは否定できない。民間管井戸のもう一つの問題は環境に対する悪影響、つまり無秩序な地下水汲み上げを奨励してきた点である。このため水位が年々低下し、揚水費用が高騰したり、飲料水用の井戸が枯れるなど、深刻な影響が出始めている地域もある。
「緑の革命」に対する最も深刻な批判は、水の制御が難しい天水地域を素通りしてきたというものである。インドの非灌漑地率は約70%であり、かかる地域では、「緑の革命」の普及促進要因である道路、市場、電化、銀行、学校など物的・制度的イン

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION