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第4章 アジア諸国の農業事情

 

東京大学東洋文化研究所教授
原洋之介
東京大学大学院農業生命科学研究科助教授
藤田幸一

 

1 東南アジア

 

1) 経済発展と農業問題の発生
東南アジア地域のなかで、アセアン諸国はフィリピンを例外として過去4半世紀にわたり、持続的な経済成長を達成している。過去10年間(1985−94年)の1人当り所得の成長率をみても、インドネシアで6.0%、タイで8.6%、マレーシアで5.6%となり、世界のなかで最も高い経済成長を達成させてきている。フィリピンだけは、1.7%の成長率でしかなく、アセアンの高度経済成長の例外となっている。この高い経済成長率の結果として、1人当り国民所得の水準は、1994年時点でみて、インドネシアは880ドル、タイは2,410ドル、マレーシアは3,480ドルの水準になっており、フィリピンは950ドルにとどまっている。非貿易財の価格が途上国程相対的に安いことを考慮して生活水準をはかる購買力平価基準の推定値でみてみると、インドネシアは3,600ドル、タイは6,260ドル、マレーシアは7,050ドルの水準に達しているのに対して、フィリピンは2,740ドルでしかなくインドネシアよりはわずかではあるが低くなっている。
先進国の経済発展の経験と全く類似して、これらアセアンの諸国では、国内総生産に占める農業の比重は大きく低下している(第1表)。この点で、アセアンの国々はもはや決して農業国とはいえない。同じ東南アジアでも、最近ドイ・モイ政策の展開によって市場経済化の途を歩きはじめたベトナムでは、未だ農業が国民経済にしめる比重が大きいことは勿論である。このベトナムと、ミャンマー、カンボジア、ラオスを除いて、他の東南アジア諸国はもはや農業国ではない。
国内総生産に占める農業の比重が低下したとはいっても、これら東南アジア諸国で食糧穀物生産がそれ程急激な比較劣位化を示している訳ではないことに注目しておきたい。食糧穀物生産に関する国際競争力を表示する指標として、SITC大分類0番の「食糧・動物」に関して1980年と1993年とに関して純輸出比を算出しておこう。この純輸出比とは輸出額マイナス輸入額を両者の合計で割ったものであり、国際貿易論で

 

 

 

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