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また、既にみたような産業間の比較生産性の格差から推察されるような農、非農間の所得格差はかなり大きく、農村地帯から都市への移動要因圧力は決して小さなものではないとみられるのである。農業セクターが非農セクターへの労働力供給基地の性格をもつこともいぜんとして否定できないのである。
産業構造の変化に寄与した労働力移動に関して、それぞれの国内事情については、以上みてきたところであるが、アジア地域内の国境を越えた移動についても簡単にふれておこう。まず、アジア地域の主要送り出し国、インドネシアであるが、この国は多数の島をかかえ他方ジャワ本島の人口過密から国内移住計画にも積極的に対応してきた。この姿勢の延長上で海外送り出しにも取り組んできた。海外への移動労働者は1980年代に入って増加し、90年代に入って年間10万人程度であり、国内就業者数の1%弱で、人口増加率(80〜92年2.4%)に比べ、決して小さくないものである。この国の宗教など社会事情を反映して送り出し先はサウジアラビアが多かったが、マレーシア、シンガポールなども、その2割強を占めており、これらの国が不足気味となっている未熟練労働力の補充的役割を果たしている。これに対し、近年経済発展が著しく、国内の労働力の需要超過傾向に入っているタイ、マレーシアなどは海外流出数は80年代後半から頭打ち気味となっている。アジア地域での最大の外国人労働者の受入国は日本であるが、国内事情を考慮して、単純労働者は原則拒否し、技能労働者の研修受入、長期的には留学生受入れなどによる人材開発の役割を果たしている。研修生受入れは、進出企業の現実的ニーズに応えるもので、必ずしも高レベル技能に限られるものではないが、技術移転、産業近代化に貢献するところは大きいといえよう。
産業構造の変化は農業から非農業、とくに製造業へのシフト、製造業の内部では労働集約的産業から資本集約的産業への移行というパターンで、いわば産業の高度化、近代化の性格をもっている。こうした産業高度化は、労働から資本への代替を基本的性格とするものである。しかしながら、生産の主要素である労働に関しても高度化の段階で要請されるのは質的水準の上昇である。経済発展の段階では次第に技術の要請で熟練労働力の不足が顕在化するようになる。近年アジア諸国では経済発展の条件づくりとしてのインフラ整備と同格で人的資源開発政策が重要政策課題

 

 

 

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